ノモス本社で開催されている第6回ノモスフォーラムの会場からお届けする。
今年の新作発表をひと足早くプレビューしているところだ。詳細はまだ公開できないが、例年どおりフォーラムの開幕に合わせて新作が登場した。今年は、限定エディションのクラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー “ナイト ナビゲーション”がその幕開けを飾る。
Nomos Campus
昨年のフォーラムで大きな議論を呼んだ、日付窓がふたつも設けられていたタンジェント 2デイトの発表を覚えている方もいるだろう。しかし今年発表されたすべての新作には、幸いにも日付窓は一切存在しない。その代わりに登場したのが、今年高い評価を得たクラブ・スポーツ ワールドタイマーのシルエットをもとにした新作であり、3種類の超サイバーパンク(編注;近未来のディストピアを舞台としたSFのサブジャンルを意味する)なカラーリングで展開されている。
その名前は、外観に劣らずエッジの効いたグリッド、トレース、ベクターの3つ。ノモスは、航空機のコックピット計器や夜間飛行中に見下ろす都市の光景からインスピレーションを得ている。3つのモデルはいずれもサンレイ仕上げとブラック ガルバニック仕上げを施したダイヤルをベースに、コントラストの高いアクセントカラーをそれぞれにあしらっている。グリッドはオレンジをテーマに、エクリュ(編注;淡いベージュ色)カラー文字のブラウンのシティリングを装備。トレースはターコイズブルーを基調とし、ベクターはライトイエローのエクリュカラー文字をアクセントにオリーブのシティリングを備えている。いずれのモデルにも共通して、ホームタイムを示す24時間表示インダイヤルの針を備え、鮮やかなオレンジを現在地を示すダイヤル上部の小さなインジケーターにあしらっている。さらに、ミニッツトラック上の目盛りにより、ダイヤル上に記された都市のいずれに対しても時差を計算できるようになっている(サマータイムを除く)。
Vector Worldtimer Table
クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー ベクター。
Yellow Dial Closeup
Nomos Grid Closeup
グリッド。
これら3つのダイヤルはノモスの基準からするときわめて異例のデザインだが、それ以外は今春発表された8色展開のクラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマーと同一だ。ステンレススティール製ケースの直径は40mmで、クラブシリーズにとって新たなショートタイプのラグデザインを採用。ケース厚はわずか9.9mmと、驚くほどスレンダーに仕上げている。ねじ込み式リューズのチューブ部分には、リューズを緩めたときにのみ現れる赤いリングを設けており、100m防水の密閉状態が保たれているかを確認できる仕組みとなっている。
Crown Unscrewed
Caseback shot
Yellow On Wrist
この優れた装着感を支えているのが、今年新たに登場した完全一体型のワールドタイム ムーブメント、自動巻きCal.DUW 3202だ。ノモス自社開発の脱進機構であるノモススウィングシステムを搭載し、パワーリザーブは42時間を確保している。
クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマーの新作3モデル、グリッド、トレース、そしてベクターはいずれも各175本限定で、価格は77万2200円(税込)だ。
我々の考え
ノモスが新作であるクラブ・スポーツ ワールドタイマーを発表したのは、そう遠い昔のことではない。それだけに初回モデルからわずか半年で、この3色の限定モデルが登場するとは正直驚かされた。
率直に言えば、ノモスのチームは春のフェアで発表した6種類の限定カラーモデルがこれほど人気を集めるとは想定していなかったのだろう。それも無理はない。クラブ・スポーツ ワールドタイマーは、ノモスの通常ラインナップよりも明らかに高価格帯に位置するモデルだからだ。6色×175本、さらに通常カラーの2モデルを加えれば、相当な生産数となる。それでも、世界の正規販売店にごくわずかに在庫が残っている可能性を除けば(実際、イタリアの販売店で偶然見つけたという報告もオンラインで散見される)、6種類の限定カラーモデルはいずれも完売している。4月に発表されたモデルについても同じことを言ったが、今回もあえて繰り返したい。この価格帯(全体的な値上げの影響で、4月のモデルに比べてわずかに上昇している)においても、クラブ・スポーツ ワールドタイマーは依然として価値ある選択肢と言える。堅牢なGADA(編注;Go Anywhere, Do Anything/どこへでも行けて、何でもできる)スペック、そして完全自社製で完全一体型のワールドタイム ムーブメントを考えれば、その評価は揺るがない。
Blue Wristshot
トレース。
Yellow Dial Closeup Bottom
Blue Dial On Tray
したがって、今回これほど早いタイミングで新たな3モデルを投入したのは、依然として続く高い需要を逃さず取り込むための戦略と言えるだろう。もっとも、そのダイヤルデザインは、最初の6モデルとは“昼と夜ほど”の違いがある。実際に手に取って見ると、ブラックダイヤルに高彩度のアクセントカラーを組み合わせたコントラストが、レンダリング画像以上に鮮烈な印象を与える。ただし、反射防止コーティングの影響で、光の角度によってはダイヤルが青みがかって見えることもある。いずれにせよ、これらは間違いなく、実物を目にしてこそ真価がわかる時計だ。
個人的にこのなかで最も引かれたのはベクターだ。当初はオレンジのグリッドがお気に入りになると思っていたが、実際に見るとグリーンがかったイエローのアクセントをあしらったベクターは、ほかの2モデルほど強く主張しない。そして特筆すべきは、ケースに備えられたワールドタイム用プッシャーの操作感だ。これは、ウォッチメイキングの世界でも屈指の満足感をもたらす体験と言ってよい。
Yellow Wristshot on leather
ワールドタイマーのダイヤルデザイン(そしてその複雑機構)は、一見するとノモスの礎となっているバウハウスの理念と相反するように思える。だが、今回の3モデルにおける配色(そしてその背後にあるインスピレーションの物語)は、さらにその枠を大きく踏み越えている。ノモスに対してこの言葉を使うとは思わなかったが、この3つの“ナイトナビゲーション”は、これまでの同ブランドには見られなかったタクティクールなデザインだ。そして、ふっと考えてしまう。ブランドが成長し、新たな領域へと進化していくうえで、ブランドが新しいことに挑戦する際、あのインスピレーションを手放すことはもしかすると避けられないことなのだろうか?
これらの新作は、これまでノモスのデザインに共感できなかった層を確実に引きつけるだろう。となれば、次にベルリンのデザインチームがどの方向へ舵を切るのか。それこそが、今後注目すべきポイントであろう。
基本情報
ブランド: ノモス グラスヒュッテ(Nomos Glashütte)
モデル名: クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー ナイトナビゲーション(Club Sport neomatik Worldtimer Night Navigation)
型番: 790.S7 (トレース)、 790.S8 (グリッド)、790.S9(ベクター)
直径: 40mm
厚さ: 9.9mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: カラーアクセント付きのガルバニック加工が施されたブラックダイヤル
インデックス: プリント
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: SS製のクラブ・スポーツブレスレット
ムーブメント情報
キャリバー: DUW 3202
機能: 時・分表示、スモールセコンド、24時間のホームタイム表示、ワールドタイム表示
直径: 31mm
厚さ: 4.8mm
パワーリザーブ: 42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 37
クロノメーター認定: なし
価格&発売時期
価格: 77万2200円(税込)
発売: ノモス公式オンラインストアおよび正規販売店
限定: あり、各175本限定