オーデマ ピゲ ロイヤル オークにガラスベゼルとゴールドブリッジを採用し。
オーデマ ピゲは、“ジャンボ”によってそのデザインを困難な場所へと追い詰めてしまうかもしれないが、その代わりに、アイコンを基に新しいことをする方法を探し続けている。
ロイヤル オークに飽き飽きしているのはわかる。ただ時計がユビキタスな存在として広く普及しているにもかかわらず、これがもどかしくも触れることのできない地位を維持しているのには、さまざまな理由がある。私のようにすべてのロイヤル オークの母、“ジャンボ” エクストラシンに目をつけているなら、なおさらもどかしい気持ちだろう。オーデマ ピゲが毎年欠かさず発表している、数多くのバリエーションに寄せられるコメントを見ると、正直言って笑ってしまう。“ほかにロイヤル オークにうんざりしている人はいないか?”。そう感じたのはあなたが初めてではないし、ましてやそれについてコメントしたのもあなたが初めてではない。しかし、ロイヤル オークのすべてのリリースをすぐに否定することは、その過程でかなりクールなものを見逃していることが多い。
16204BA
これはかなりクールだろう?
信じて欲しいのだが、私も昔はあなたと同じだった。確かに、心の底に嫉妬心もあったかもしれないが、それ以上に当時騒がれていたような“単純さ”に抵抗したかったのだ。もてはやされなくとも、誰にとっても意味のあるデザインではない。評価が両極端に分かれる時計だ。しかし、ジェンタがデザインしたスポーツウォッチの典型的なモデル(ジャンボや、パテックから発売された“ジュネーブジャンボ”など)が、世界で最も快適かつエレガントに着用できるスポーツウォッチのひとつであることは、私にとって否定できない事実だ。
15202BC
15202BCが、最も人気のある2針のモダンジャンボのひとつになったのには、シンプルな理由がある。それはつけ心地がよく、文字盤が美しいからである。Photo: James Stacey
どちらの時計も相対的に薄いため、その薄さとバランスが、私を高級時計製造最大の特徴のひとつであるという考えへと転換させた(繰り返しになるがロイヤル オークの39mm×8.1mmというジャンボサイズについて伝えておく。それ以外のサイズの2針モデルはほぼ認めない)。しかしそのデザインを“理解”するためには、残酷なまでに美しいジュウ渓谷の風景へと目をやる必要があった。また非常に象徴的な時計なため、理論的には人々が知っていることや愛していることから逸脱することなく改良を加えることは比較的難しいはずである。それなのに、なぜかオーデマ ピゲはそれを可能にするから、私は何度もファンになってしまうのだ。
ロイヤル オークの誕生50周年から1年が経過した。1週間ほど前のオーデマ ピゲのリリースでは、39mm×8.1mmというバランスの取れたパッケージに手を加えず何ができるか、ふたつの例が示されていた。新しい“ジャンボ” エクストラシンはそれぞれ印象的だったが、シェイプやサイズをアイコニックにすることにこだわると、どんなことができるかを示す例でもあった。そのパッケージとそこに収められたラインナップを、どのように反復するのだろうか?
16202XT
写真を見ると、サテン仕上げとポリッシュ仕上げされたチタンケースの新作の16202XTは、最近の記憶で最も気に入らないダイヤルを持つジャンボ ロイヤル オークのひとつだった。このように記憶に残る、よく知られたデザインであれば、ダイヤルは本当に明暗を分けることがある(15202BCと16202BCは、典型的な文字盤デザインの完璧な例だ)。16202XTにはスモークバーガンディダイヤル、サンバースト仕上げ、そして18Kピンクゴールドの時・分針とインデックスが施されている。文字盤をこれほどまでに派手にやってしまうのは、ロイヤル オークの最も優れた部分のひとつを損なう行為であると同時に、ケースそのものが際立ったデザイン要素であるべきだと確信させた。
矛盾するふたつのことを同時に両立させている。問題は、それが気に入るかどうかだ。
16202XT
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実際に見てみると、16202XTの印象的な赤いダイヤル(のディテール)に気づく。手に取ったあとも私のお気にいりには入らなかったが、ラインナップにバリエーションが加わったことは確かで、近年私が覚えているよりも多くの変化を加えようと努力しているように見える。柔らかい光の下だとサンバーストはそれほど目立たなかったが(ポータブルライトボックス下のマクロ写真ではほとんど消えていることにお気づきだろう)、特定の角度によっては飛び出しているかのように見える。細かいことを言えば、赤いカレンダーホイールは、“オンブレ”効果がちょうどブラックフェードし始める場所にあるため、カラーマッチはうまく機能していない。
16202XT
しかし、文字盤から気をそらすとすぐにカッコいいベゼルとブレスレットに目が行く。どちらも、ほかのAPのコアモデルでは見られないレベルのポリッシュ仕上げが施されている。というのもその2カ所と裏蓋の周辺、およびポリッシュ&サテン仕上げのBMG(バルク メタリック ガラス)ケースバックとフレームに使用されている素材が、ガラスでできているからだ。
16202XT
つまりバルク メタリック ガラスが採用されている。オーデマ ピゲはパラジウムベースのバルク メタリック ガラスを2021年のOnly Watch、15202XTで初めて使用したが、BMG自体は1960年代から存在しており、マイクロエレクトロニクスやゴルフなどで使用されてきた。新しい16202XTにも同じ合金が使われているのだ(裏蓋の“Titane”の刻印の下にPd500というホールマークがある。これが証だ)。しかし確かに、これはちんぷんかんぷん(mumbo-jumbo – ダジャレを意図したものではない)だ。では、何を意味するのか?
16202XT caseback
16202XT bracelet
金属を冷却すると結晶が形成され、状況によってはメテオライトで見られるような驚くべきパターンが現れる。金属は冷却速度が速いほど結晶が小さくなり、密度が高くなる。十分に冷却すれば、結晶はまったく形成されない。その代わり、結晶性のないアモルファス内部構造(原子や分子が不規則に密集した状態)が得られるが、それは定義上、実際にはガラスであり、信じられないほどの硬度と輝きを持つガラスとなるのだ。
16202XT
これのメリットはずばり、ロイヤル オークの主要な問題のひとつであるベゼルの傷つきやすさを、硬度が打ち消してくれるということだ。もちろん、どんな時計でも最初についてしまった傷は目も当てられなくなる。特にRO(ロイヤル オーク)のベゼルは非常に洗練されているため、どんな傷も本質的に大きな傷跡となり、見ずにはいられなくなる。まあ、どうやらほかの16202(同じCal.7121を搭載)に比べればかなり高価ではあるものの、新素材の採用により問題は回避しやすくなったようだ。価格は9万6400ドル(日本円で約1425万円)もするが、傷が付きにくい“ジャンボ”を安心して手に入れることができる。ただでさえ手に入らないスティール製の16202よりも入手は困難だろう。
16204BA
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もうひとつ、18Kイエローゴールドの新しい“ジャンボ” エクストラシン(16204BA)は、昨年のSSとローズゴールドの発表に続くポスト50周年のラインナップに、もう1型のオープンワークモデルとして加わった。10万3000ドル(日本円で約1525万円)というこの価格は、新しい貴金属製のオプションと16202XTとの差はそれほど大きくないが、それでも、税込で434万5000円という“ベーシック”なSS製の16202とは次元が異なる。こちらの場合はハイテクな科学素材の代わりに、スケルトナイズされたマスタークラスを手に入れることができるのだ。
ケースはジャンボを非常にウェアラブルにしたものと同様、39mm×8.1mmで展開。ただ昨年発表されたPG製オープンワークダイヤルの16204ORでは、文字盤の隙間部分にコントラストをつけるべくブラックサテンのブリッジの格子を使用していたが、新しい16204BAでは、ブリッジの全面にゴールドを採用している(後方から見える部分を除く)。これらのゴールドは、ヴィンテージ時代への回帰を感じさせてくれる。
16204BA
16204BA
16204BAの内部には超薄型の自動巻きCal.7124が収められている。これは今まで見てきた16202XTや、ほかの16202に搭載されたCal.7121ムーブメントと並行して設計されたものだ。1967年からジャンボに搭載されていた2121/20ムーブメントが終焉を迎えたあと、確かにアップグレードの時期が来ていた。約55時間のパワーリザーブを備えた2121は、ブランドが今後55年間使用することを選択した場合、確実に信頼性の高い改良であることが証明されるだろう。7121の仕上げは素晴らしく、オリジナルの16202STは特によかったが、Cal.7124のオープンワークは最高だ。
16204BA
ブリッジの配置は考え抜かれているようで、素晴らしい円の構造をとおして、ムーブメントの機能部分を強調している。ローターからは“50th”(フォントがNASCARレースのブランディングを連想させていた)が消え、この時計はより洗練されたものになった。