セリカがブランドの新たなラインナップとして、“パレード” Ref.1174という2種類のダイヤルバリエーションを発表した。

このモデルは同ブランド初となるシェイプウォッチ(特定の形状を持つ時計)である。ムーブメントにはほかのモデルにも採用されているソプロード製M100を搭載し、際立ったデザインと魅力的な価格設定を重視している。新作の価格はほかのシンプルなタイムオンリーウォッチよりやや高めの1490ユーロ(日本円で約24万円)だが、それでもコレクションに加える価値のある魅力的なモデルだ。

Serica Reference 1174 “Parade”
“パレード”という名前は、アメリカで一般的に思い浮かべるパレード(フロートや巨大な七面鳥型バルーンのようなもの)から取られたわけではない。むしろファッションショー、軍事式典、あるいは愛の儀式のように、人々が自身の最良かつ独自の姿を披露する場のイメージに由来している。このステンレススティール製ケースは、横35mm、縦41mm、厚さ8.6mmで、“スタジアム型”と呼ばれる独特の形状を採用している(これはブランド独自の用語だ)。さらに同じ“スタジアム型”のピンバックルを付属し、統一感を持たせている。またRef.1174というリファレンスは、ケースの幅と長さの比率(1:1.74)から名付けられており、セリカがこのモデルのために選んだバランスの取れたプロポーションを示す。ケースの仕上げは、フラットなヘアライン加工と磨き上げられたエッジが巧みに組み合わされている。また、片側にはリューズガードとしてふたつの小さなフランジが設けられ、それが反対側とのバランスを生み出している。この価格帯としては非常に満足度の高い仕上がりだ。

Serica Reference 1174 “Parade”
文字盤は、サテンブラックとサンレイ仕上げの真鍮製の2種類を用意。ダイヤルにはS字カーブを描いたギヨシェ風装飾が施され、サンレイ仕上げが美しく映えるデザインだ。さらに球体のような立体的なインデックスが配されているのも特徴的だ。針にはミラーポリッシュ仕上げが施されたドーム型のソードハンドを採用。ストラップはラグのない仕様で、幅18mmから14mmにテーパーしたデザインとなっている。この時計には秒針がないためほかのモデルのようにCOSC認定を受けることはできないが、重要なのはそこではない。この時計は日常とは少し違う、特別な感覚を手首に加えたいときに選べる時計なのだ。現在セリカの公式ウェブサイトにて1490ユーロ(日本円で約24万円)で販売中だ。

我々の考え
好むと好まざるとにかかわらず、現在はシェイプウォッチのルネサンス期にある。アノマやトレダノ&チャン、ファーラン・マリ、そしてほかにも多くのブランドが、近ごろさまざまな形状の時計を発表している。そして日々時計を見ている私にとって、それは新鮮さを取り戻すひとつの清涼剤のように感じられる。ファーラン・マリのディスコ・ヴォランテ同様、このモデルも形状に関しては比較的控えめな印象を与えるが、それでもセリカにとっては大きな挑戦といえる。当初は少し懐疑的だった。というのもセリカといえば精巧につくり上げられたツールウォッチという美学が強く結びついていたからだ。ただ見れば見るほど、その魅力が心に染み渡るようになった。

Serica Reference 1174 “Parade”
セリカのフィールドクロノメーターをまず手に取るだろうという気持ちは変わらないものの、このモデルも楽しい選択肢であり、細部まで考え抜かれたデザインが光る1本だ。デザインはどこかパテック フィリップのエリプスをほうふつとさせる部分があり、ケースの側面にある“耳”のようなディテールにはノーチラスの雰囲気も感じられる。しかし、特にブラックダイヤルは写真で見る限り非常に魅力的だ。曲線的なサンレイ仕上げのギヨシェ風パターン(実際にはスタンプ加工によるもの)、ドーム型の針、そしてポリッシュ仕上げには、細部へのこだわりが見て取れる。セリカが引き続き価格以上の価値を提供していることがうかがえる。装着感もよさそうだが、実際に手に取って確認してみたいと思う。

Serica Reference 1174 “Parade”
基本情報
ブランド: セリカ(Serica)
モデル名: パレード(Parade)
型番: 1174

直径: 35mm×41mm
厚さ: 8.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: サテンブラックまたはサンレイ仕上げの真鍮製、S字カーブのギヨシェ風装飾とサンレイ仕上げ、鏡面仕上げのドーム型針
インデックス: 球体型
夜光: なし
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: グレイン加工のカーフレザーストラップ(幅18mmから14mmにテーパー)、SS製“スタジアム”型ピンバックル付属

オリス プロパイロットX ミス・ピギー エディションが登場!

音楽スタート。ライトをつけて。奇想天外なプロパイロットXをつけたミス・ピギー!

オリスは突如として大胆かつ鮮烈なグリーンの『マペット・ショー』とのコラボレーションモデル、オリス プロパイロットX カーミット エディションを発表した。その成功の鍵は、シンプルさを保ちながらも個性を際立たせたデザインにあった。このモデルではカーミット エディション専用の鮮やかなグリーンダイヤルが新たに導入された。そして最も特徴的なのは、月初めの日付窓に笑顔のカーミットがプリントされていることだ。月に一度だけカーミットウォッチなのだと思い出させる、絶妙なアクセントとなっている。ただし、もし私のようにこの時計を購入したならば、着用するたびに日付を1日に設定すればいつでもカーミットの笑顔を楽しむこともできる。

プロパイロットX カーミット エディションのリリース後(予想どおり、短期間ながらも熱狂的な人気を集めた)、次なる展開があるのかどうか多くの人が気になっていた。オリスは当然ながら、今後の計画について多くを語らず、私たちはただ待つしかなかった。そして1年が経ち、私はパートナーシップはもう終了したのだろうと考え始めていた。でもその予想は見事に裏切られた。ブライトリングスーパーコピーn級品 代引き新たに登場したプロパイロットX ミス・ピギー エディションは、シリーズ初となる34mmの小型ケースを採用している。またプロパイロットXシリーズとして初めてステンレススティールが採用され、従来のチタン製ケースからの大きな転換点ともなった。

この34mmのプロパイロットXは、ケースのシルエットこそ従来の大型モデルと同じだが、SSの採用によりベゼルやブレスレットの一部にポリッシュ仕上げが施された。その結果、完璧にインダストリアルな雰囲気のカーミット エディションとは異なり、より繊細で洗練された印象を与えるデザインとなった。また一目瞭然だが、ケース径34mm、ラグからラグまでの長さ41.5mm、ケース厚11mmという設計により、これまでとは異なる層のユーザーにも快適な装着感を提供してくれる。

プロパイロットX ミス・ピギー エディションのダイヤルには鮮やかなホットピンクが採用され、プロパイロットXシリーズとしては初となるアプライドインデックスが取り入れられた。マゼンタカラーの立体的なインデックスが配置され、12時位置にはミス・ピギーの華やかさに敬意を表するかのように、ラボグロウンダイヤモンドをあしらっている。ムーブメントには、このシリーズでは初めて自社製ではないCal.531(セリタベース)が採用された。またプロパイロットX カーミット エディションとは異なり、このモデルには日付窓が存在しない。ではミス・ピギーはどこにいるのか? それは時計を裏返せばわかる。ほぼソリッドなケースバックに小さなミネラルガラス製の窓が設けられ、そこからライラック色の背景に描かれたミス・ピギーの姿をプリントしたローターを見ることができる。ローターが回転するたびに、時折ミス・ピギーの姿がちらりと見えるという仕掛けだ。

プロパイロットX ミス・ピギー エディションは現在発売中で、価格は47万6300円(税込)だ。

我々の考え
私はジム・ヘンソン(Jim Henson)、『マペット・ショー』、そしてグリーンダイヤルの大ファンだ。だから最初のカーミットとのコラボレーションは、まさに自分のためにつくられたようなものだった。余談だが、もしニューヨークやジョージア州に行く機会があれば、アストリアのミュージアム・オブ・ムービング・イメージと、アトランタのセンター・フォー・パペットリー・アーツにある、ジム・ヘンソンの功績を称える常設展示を訪れて欲しい。私はどちらにも訪れたことがあるのだが、初期のウィルキンス・コーヒーの広告作品から『マペット・ショー』、さらには『ダーククリスタル(原題:The Dark Crystal)』のスケクシスまで、あらゆる作品を見ることができる。さらに、もしオーランドを訪れる機会があれば、今年閉館予定のマペット・ビジョン3Dもぜひ見て欲しい。これはジム・ヘンソンが亡くなる前に手がけた最後のプロジェクトである…と、話が脱線してしまった。

プロパイロットX ミス・ピギー エディションに話を戻そう。プロパイロットX カーミット エディションの登場後、HODINKEEのチームでは次にどのキャラクターが登場するのか、さまざまな予想が飛び交った。スウェーデン・シェフか? アニマルか? スタットラー&ウォルドーフか? それともエメット・オッターか?! そのなかでミス・ピギーが選ばれたのは、あの有名なしゃべるカエルとの関係性が最も自然だからだ。しかしオリスがこの選択によって、女性向け時計は小さくして、ピンクにして、ダイヤモンドを加えるものだという、スイス時計業界のステレオタイプを覆すことに成功したかどうかは議論の余地がある。ただ反論としてはこう言えるだろう。もしミス・ピギーをテーマにした時計をつくるなら、そのキャラクターの持つ華やかさや、きらびやかな衣装やアクセサリーへの愛情を最大限に表現することが正解だ。間違いなく、彼女自身がこの時計を身につける姿は想像できる。

コラボレーションという側面を抜きにしても、このモデルはオリスのラインナップにおいてきわめて興味深い存在だ。プロパイロットXシリーズとして初めて女性をターゲットにしたモデルであり、初めてSSを採用し、さらに初めて自社製ムーブメントではないキャリバーを搭載した。これらの要素は、従来のプロパイロットXの枠組みをさまざまな形で打ち破っており、オリスがこのシリーズにおいてさらなる可能性を探求する姿勢を持っていることを示しているように思える。

39mmのSS製プロパイロットXが登場する可能性はあるのだろうか? あるいは、オリスがアクイスラインのように、39mmのプロパイロットXをセリタ製ムーブメント搭載のより手ごろな価格帯で展開することはあるのだろうか? さらにこのミス・ピギー エディションのダイヤルは、私が所有するプロパイロットX カーミット エディション(およびそのほかのカラーバリエーション)に感じていた大きな不満点を解消している。つまり立体感の欠如だ。アプライドインデックスはコントラストと視認性を大幅に向上させている。ミス・ピギー エディションに採用された、ルビーを思わせるインデックスはこの問題を見事に解消していると思う(もう少しファセットが加えられていたらさらによかっただろう)。

ミス・ピギー エディションは、よりターゲットを絞った明確なデザインと、47万6300円(税込)という価格設定から見ても、オリジナルのカーミット エディションと比べてかなり市場を限定している(正直、私自身はそのターゲット層には含まれていないと思う)。だが、単にカーミット エディションのCal.400というプラットフォームに新たなカラーを追加するだけではなく、意図を持ったデザインとして仕上げた点は評価に値する。この時計は、オリスとディズニーのパートナーシップが今後も続くこと、そしてオリスがその最もオリジナリティあふれるプロダクトラインのひとつで、さらに新しいアプローチを模索していくことを予感させる。

基本情報
ブランド: オリス(Oris)
モデル名: プロパイロットX ミス・ピギー エディション(ProPilot X Miss Piggy Edition)
型番: 01 531 7796 4158-07 8 17 05LC

直径: 34mm
厚さ: 11mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ホットピンク
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: LIFT(オリス独自のフォールディング)クラスプ付きSSブレスレット

ムーブメント情報
キャリバー: 531(セリタベース)
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 17.2mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時

ヴァレクストラ(Valextra)の2025年新作ウィメンズバッグ「ヴィヴィトート」が新登場。

折りたたんで形を変えられる「ヴィヴィトート」
「ヴィヴィトート ミディアム」396,000円
「ヴィヴィトート ミディアム」396,000円
丸いシボが特徴のミレプンテ ソフトレザーを使用し、ディオール スーパーコピー彫刻的なシルエットを表現したホーボーバッグ「ヴィヴィ」。今回はそんな「ヴィヴィ」コレクションに、新たにトートバッグが仲間入りする。

「ヴィヴィトート ミディアム」396,000円
「ヴィヴィトート ミディアム」396,000円
新作の「ヴィヴィトート」は、シンプルなデザインながら、両サイドのレザーを折りたたむことで、フォルムを簡単に変えられるのが魅力。サイドを内側に折り込んだコンパクトな状態では、より女性らしくミニマルな印象に。サイドを外側に広げると容量が増え、直線的なシルエットを楽しめる。

「ヴィヴィトート ラージ」484,000円
「ヴィヴィトート ラージ」484,000円
ストラップは長めに設計しており、ゆったりと肩掛けすることが可能。開閉部にはスマートなマグネットフラップを採用、内側には上品なグレーのスエードライニングを配するなど、ディテールにまで洗練されたデザインにこだわった。取り外しできるジップ付きポーチを備えているのも嬉しい。サイズはミディアムとラージの2種類を用意する。

【詳細】
「ヴィヴィトート ミディアム」396,000円
「ヴィヴィトート ラージ」484,000円
発売時期:2025年7月
展開場所:全国のヴァレクストラ店舗、公式オンラインブティック
サイズ:
・ミディアム W25×H28×D16cm
・ラージ W36×H32×D22cm

【問い合わせ先】
ヴァレクストラ ジャパン
TEL:03-5615-2379

タグ・ホイヤーがフォーミュラ1の新時代を感じさせる新デザインを発表。

今年フォーミュラ1の75周年を迎えるにあたり、タグ・ホイヤーはいわば王座に就き、同名のモータースポーツの公式タイムキーパーに就任した。2024年、ロレックスに代わりLVMHがフォーミュラ1と10年契約を結んだことが発表されたことから、この展開は多くの人が予想していたとおりの結果と言える。タグ・ホイヤーは過去にもF1との深い関係を築いてきたのだ。

ブランドがこの機会を活かし、フォーミュラ1コレクションに新作を投入するのも当然の流れだ。ダイヤルに記されたコレクション名は、今作においてより大きな意味を持つことになった。昨年のKithとのコラボモデルがレギュラーモデルとして復活することを密かに願っていたが、今回は新たに5つの自動巻きクロノグラフが登場した。そのなかには、オラクル・レッドブル・レーシングとの関係を引き続き感じさせる特別モデルも含まれている。

新モデルのケースサイズは直径44mm、厚さ14.1mmで、直線的かつブロックのような形状が特徴だ。そのシェイプはトノーケースにも少し似ており、同僚にロールシャッハテストのようにこのケース(のシルエットだけ)を見せたところ、ポルシェデザインやチュチマ、そしてセイコーの“サムライ”を思い起こすとの意見が寄せられた。タグ・ホイヤーはこのケースラインについてF1カーの空力ライン、特にクルマのノーズ部分に触発されたデザインだと説明している。正直にいうと両者の関連性を理解するのは難しいが、全体的なデザイン文脈においてはこのケース形状に魅力を感じる。スペック上のサイズは大きいものの、ラグトゥラグが47.3mmと適度なため、想像以上に装着感は良好だと思う。

ケースはグレード2のチタン製で、うち3つのモデルはDLCコーティングによりダークなコントラストを強調する仕上げになっている。レギュラーモデルの4つにはDLCコーティングが施された固定式のアルミニウム製タキメーターベゼルが採用され、フラットなサファイアクリスタルで覆われている。また、DLCコーティングが施されたリューズとプッシュボタンを備えており、DLCコーティングのないケースを持つモデルではそのコントラストがさらに際立つ。ケースの内部には、ダイヤル上のクロノグラフ積算計のレイアウトからも確認できるように、ETA7750をベースとしたタグ・ホイヤーのキャリバー16が搭載されている。

フォーミュラ1といえば鮮やかで大胆な色使いが特徴だが、今回の新作も例外ではない。各モデルには赤、ライトブルー、ライムグリーンといったアクセントカラーがセンスよく取り入れられている。黒い文字盤には、インデックスを囲むラッカー仕上げのミニッツトラック部分にこれらの色が用いられ、タグ・ホイヤーの盾型ロゴが配置されたベゼル、クロノグラフ針、5分刻みの目盛りにも同様のアクセントが施されている。

DLCコーティングされていないモデルには鮮やかな赤いラバーストラップが採用されており、これが全体のデザインを引き締めている。一方、黒いケースのモデルには控えめな雰囲気を持つ黒いストラップが組み合わされているが、ストラップの中層部分には対応するアクセントカラーが仕込まれており、側面から見た際にさりげなくその色が現れる仕掛けになっている。ストラップの留め具は尾錠タイプだが、このデザインに合わせるならばデプロワイヤントクラスプのほうがより一貫性があったかもしれない。ケースの側面を見ると、チタンケースのカットアウト部分からはベゼルとケースの接合部に同じアクセントカラーがのぞくさまが確認できる。

最後に紹介するフォーミュラ1 クロノグラフ×オラクル・レッドブル・レーシングエディションは、ほかのモデルと一線を画す仕様になっている。このモデルではケース、プッシャー、リューズにDLCコーティングが施されておらず、よりナチュラルな金属の質感が楽しめるが、すべてのパーツに見られるサンドブラスト仕上げによってモダンな雰囲気も醸し出している。ベゼルはフォージドカーボン製で、文字盤にはオラクル・レッドブル・レーシングチームのカラーリングが採用されている。ブルーの文字盤は直球ともいえる市松模様のデザインだが、完成度の高い仕上がりとなっている。さらにケースバックには、チームとコラボレーションのロゴがしっかりと刻まれている。

DLCコーティングされていないレッドのフォーミュラ1 クロノグラフの価格は70万4000円(税込)、DLCコーティングされた3つのモデルはそれぞれ73万7000円(税込)となっている。オラクル・レッドブル・レーシングエディションは81万4000円(税込)だが、限定というわけではない。これらのモデルは年間を通じて順次販売され、レッドのアクセントを持つ2モデルとレッドブル・レーシングエディションはすでに発売中である。

我々が知っていること
これまでのモダンなフォーミュラ1の多くに同じことを言えるわけではないが、正直なところ今回のモデルは気に入っている。このコレクションは大きな進化を遂げたと言えるだろう。新しいケースフォルムは現在の一貫性のない製品ラインナップのなかで明確なアイデンティティを確立するための素晴らしい一歩であり、文字盤のカラーアクセントやプッシャーの形状、バイカラーのストラップなど細部への配慮には感心させられる。レッドブル・レーシングエディションを除けば、過去モデルではあまり見られなかった控えめなデザインが取り入れられており、これにより日常使いのスポーツウォッチとしての魅力が増した。自宅のテレビでグランプリを観戦する際だけにつける時計とは、大きく異なるものだ。

手首にしっかりとした存在感をもたらす時計であることは間違いないが、ラグトゥラグの距離が適切なおかげで同価格帯のスポーツクロノグラフ、たとえばチューダー ブラックベイ クロノグラフやロンジン コンクエスト クロノグラフと比較しても、装着感という点では手首につけた際にコンパクトさが感じられるだろう。ケースのリデザインを伴う昨今のリリースで、タグ・ホイヤーが“装着感”や“ラグトゥラグの距離”を重視していることを繰り返し強調している点には好感が持てる。

また少し話が逸れるが、今回のように色違いのモデルを異なる月に分けて発売する理由については少々疑問が残る。これはおそらく特定のモデルを該当するフォーミュラ1レースで目立たせる戦略ゆえなのだろうが、真相は時間が経たないとわからない。しかしこれらのクロノグラフがフォーミュラ1コレクションの将来を示すものだとしたら、確かに興味がそそられる。

時計収集の世界では、“ホーリーグレイル(聖杯)”という言葉をしばしば耳にする。

この言葉は実質的に“いつか手に入れたい憧れの時計”という意味で使われるようになったが、その“いつか”が実現する可能性は極めて低いことがほとんどだ。これまで多くのコレクターに「あなたにとっての聖杯は?」と尋ねてきたが、その答えは多岐にわたる。たとえばポール・ニューマンダイヤルを備えたロレックス デイトナや、1930年代のユニークピースのカルティエなどが挙げられる。それぞれが自分なりのグレイルリストを持っていると思うが、それを比較し、普遍的な定義に落とし込むとするならば、時計収集の世界における究極の聖杯とはスティール製のパテック フィリップ Ref.1518であることに異論はないだろう。もしこれを聖杯として認識していないコレクターがいるなら、それはこの時計の存在を知らないか、単に目標が低すぎるかのどちらかだと私は思う。

わずか281本しか製造されていないRef.1518は、マテリアルを問わずコレクターにとっての夢の存在である。この時計のケース径は35mmで、バルジューのエボーシュをパテック フィリップが改良し、仕上げを施したムーブメントを搭載している。さあ、いわゆる“基本情報”はここまでだ。1941年から1954年にかけてのカタログに掲載されたこの時計を理解するには、その時代背景を知ることが重要である。Ref.1518は世界初の量産型永久カレンダー搭載クロノグラフであり、同じカテゴリーに並ぶ時計は存在しない。もし類似のモデルを挙げるとすれば、20世紀中盤における永久カレンダー腕時計の名門であるオーデマ ピゲのものが思い浮かぶ。しかし、APが製造した同様のモデルは9本のみであり、そのどれにもクロノグラフ機能は搭載されていなかった。

最後に市場に登場したスティール製Ref.1518はケースシリアルナンバー508473(1)の個体であった。オーレル・バックス(Aurel Bacs)主導でフィリップスのオークションに出品され、時計界に衝撃を与えた。この出来事はHODINKEEでも詳細に取り上げられ、最終的な落札価格は驚異の1100万2000スイスフラン(当時の為替レートで約12億1000万円)に達した。当時この価格はオークションにおけるパテック フィリップの時計として史上2番目に高額であり、それを上回るのはヘンリー・グレーブスJr.(Henry Graves Jr.)のスーパーコンプリケーションのみであった。かくしてこのスティール製のRef.1518は、当時のオークションで最も高価なパテック フィリップの腕時計となったのである。

そして先日、モナコ・レジェンド・グループがシリアルナンバー508475(3)の個体をプライベートセールで販売すると発表した。単刀直入に言おう。その価格が知りたい? それならばとりあえず、“2000万ドル(日本円で約30億4700万円)超”という数字を挙げておく。

この価格、もしくはそれに近い金額で取引されれば、本機は史上最も高額で販売された腕時計となる。モナコ・レジェンド・グループの会長であるダヴィデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)氏は、スティール製Ref.1518の扱いに精通している。価格に異議があるならば、彼に直接問い合わせるといいだろう。ただしその前に知っておくべきことがある。“ビッグ・ボス”として世界中のコレクターに親しまれる彼は、これまでに存在するスティール製Ref.1518の全4本を少なくとも一度は販売しており、この個体も過去に2度取引されていることが知られている。

ケースシリアルナンバー508475(3)は、2005年にパルメジャーニ氏が出版した書籍のために撮影された。 Image courtesy of Monaco Legend Group.

「なぜ最も重要なヴィンテージウォッチを、4月のモナコ・レジェンド・グループの次回オークションの目玉としてではなく、2月のプライベートセールで販売するのか?」と疑問に思うかもしれない。この点についてパルメジャーニ氏自身が説明し、時計販売の最高峰が考えるプロセスの一端を明かした。「私が考えるに、この価格帯に到達するのはオークションでは難しい」と彼は語る。「時計オークションでは、価格が500万、600万、800万ドルまでは上がる。オーレルのオークション(フィリップスのことを指している)でも、この価格帯の時計は見られる。しかし1000万ドルを超えると、一気に難しくなる」。彼は、この販売方法のほうが買い手にとって安心感があり、「じっくりと、どれほどこの時計を手に入れたいのか考える時間を持てる」と考えている 

販売プロセスに関する締めくくりとして、彼はこう付け加えた。「今朝から驚くほど多くのメールを受け取っている……私の考えでは、この時計が長く市場に留まることはないだろう」

スティール製パテック フィリップ Ref.1518、シリアルナンバー508475(3) の歴史
前述のとおり、パルメジャーニ氏はこの個体を過去に2度販売している。それゆえに、この時計には非常に興味深い歴史がある。スティール製Ref.1518は時計収集市場が確立された当初から、コレクターズアイテムの頂点に君臨し続けている。そのため、1980年代にその存在が確認されて以来価値は飛躍的に上昇し、所有者が次々と入れ替わる状況が続いている。

この個体は1980年代初頭に、ニューヨークの47丁目で発見されたことで広く知られている。当時の販売価格は4500ドル(当時の為替レートで約100万円)と伝えられており、しばらく店頭に並んでいたという。最終的にスイスの時計ディーラーがダイヤモンド・ディストリクトの片隅に眠っていたこの時計を発掘し、当時伝説的なコレクターであったルイジ・カルヴァジーナ(Luigi Calvasina)に売却した。パルメジャーニ氏によると、このスイスのディーラーはほとんど利益を得ずに時計を販売したという。カルヴァジーナは数年間この時計を所有し、その価値が約1万ドル(当時の為替レートで約220万円)にまで上昇したところで、高額だと感じ売却を決断した。次の買い手はミラノの時計販売店ピサ・ウォッチズのグラツィア・ピサ(Grazia Pisa)であった。この時計はミラノの店舗のショーウィンドウに飾られ、やがてイタリアの高級ファッションブランド、エトロの創業者であるジェローラモ・エトロ(Gerolamo Etro)の目に留まることとなる。