90年代のアクション映画に登場する初期のモデルから直接インスピレーションを受け、特別なカラーリングとアクションに適した素材が使用されているのがわかる。
もちろん1990年代のアクション映画を見て育った方なら、このブラック&イエローのカラーリングが、1999年の映画『エンド・オブ・デイズ』でアーノルド・シュワルツェネッガーが着用した初期のロイヤル オーク オフショアに直接かつ意図的に着想を得たものであることはよくわかるだろう。この限定モデル(Ref.26420CE.OO.A005VE.01)は、現行モデルのロイヤル オーク オフショア クロノグラフをベースに、厚さ14.4mmの43mmブラックセラミックケースを採用し、ケースバック、プッシュピース、リンクにはチタンを使用している。
30年前といえば1993年だが、ロイヤル オーク オフショアはすぐにヒットしたわけではなく、アーノルドが映画で着用することに興味を持ったことが、このモデルを適切なユーザー層に認知させる役割を果たした。この点について、オーデマ ピゲのCEOであるフランソワ-アンリ・ベナミアス氏は次のように述べている。「1999年、アーノルド・シュワルツェネッガーとのコラボレーションによるロイヤル オーク オフショア エンド・オブ・デイズが、初めてこのコレクションをより多くの人々に知ってもらうきっかけとなりました。オフショアの30周年を記念して、この特別なタイムピースにオマージュを捧げることは当然の選択です」
エンド・オブ・デイズのオリジナルのリファレンスは25770SNで、多くのコレクターやマニアがロイヤル オーク オフショア エンド・オブ・デイズとして知っている。この新しいモデルは、2万8800振動/時で時を刻むオーデマ ピゲの自動巻きクロノグラフCal.4401を搭載しており、約70時間のパワーリザーブを備える。この30周年記念モデルとなるロイヤル オーク オフショア クロノグラフは世界500本限定で、価格は748万円(税込)だ。
我々の考え
僕はロイヤル オーク オフショア クロノグラフについて、90年代のアクション映画と同じような感覚を持っていると考えている。どちらも大きくて、ちょっと大げさで、超男性的で、単純にエキサイティングで楽しいと思わせるプレゼンテーションに現代のクリエイティブな能力の数々を融合させることを意図している。そのような観点から、オーデマ ピゲはこの30周年記念エディションに釘付けになったのだと思う。
カラーリング、セラミックケース、そしてペアストラップの存在が、この時計を際立たせている。僕は黒と黄色が好きなのだが(クルマや服よりも時計に関して)、もしアーノルドが現代で『エンド・オブ・デイズ』を作っていたら、ロイヤル オーク オフショアの雰囲気にぴったりなセラミックを選ぶと思うのだ。最後に、この時計には2本の“テキスタイルモチーフ”のクイックチェンジ可能なカーフレザーストラップが付属している。1本はブラックにイエローのステッチ(画像参照)、もう1本はイエローにブラックのステッチが入っている。もしあなたが後者を合わせたとしても、僕はあなたを黙認するだろう。
このロイヤル オーク オフショア クロノグラフは、モダンな雰囲気とハリウッドの歴史が融合したモデルで、銀幕の力によって“大きくてたくましい”ロイヤル オーク オフショアという概念を確固たるものにしたのだ。
基本情報
ブランド: オーデマ ピゲ(Audemars Piguet)
モデル名: ロイヤル オーク オフショア 自動巻きクロノグラフ(Royal Oak Offshore Selfwinding Chronograph)
型番: 26420CE.OO.A005VE.01
直径: 43mm
厚さ: 14.4mm
ケース素材: ブラックセラミック
文字盤: ブラック
インデックス: イエローのアクセント、アプライド
夜光: あり。針とマーカー
防水性能: 1oom
ストラップ/ブレスレット: ブラックの“テキスタイルモチーフ”カーフレザーにイエローステッチにチタン製バックル、そしてイエローのカーフレザーにブラックステッチが施されたものも付属。
追加情報: チタン製のケースバック、プッシュピース、リンク。メガタペストリー文字盤パターン。ホワイトゴールド製のAPロゴを採用。
ムーブメント情報
キャリバー: 4401
機能: 時・分表示、スモールセコンド、フライバッククロノグラフ、4時半位置に日付表示
直径: 32mm
厚さ: 6.8mm
パワーリザーブ: 約70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時(4Hz)
石数: 40
価格 & 発売時期
価格: 748万円(税込)
発売時期: 順次入荷予定
限定: 世界限定500本
これはラ・ファブリク・デュ・タンが開発した、まったく新しいムーブメントを搭載している。プラチナケースを採用してモダンなデザインに仕上げたこのヴォヤジャーの新作は、ルイ・ヴィトン初のスケルトン自動巻きムーブメントを載せ、わずか150本と数量を絞って生産される(なお先に言っておくが、こちらのモデルはすでに完売している)。
ルイ・ヴィトン ヴォヤジャー スケルトン
ルイヴィトンスーパーコピー時計代引きヴォヤジャー スケルトンは、ヴォヤジャー フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ ジュネーブを生み出したときと同じ発想を受け継いでおり、ベースとなる構造を削ぎ落とした、完全なるオープンワークムーブメントを搭載している。そのためマイクロローターやスケルトンのゼンマイ香箱など、ムーブメントを構成する部品のほぼすべてが鑑賞できる。
それ以外のムーブントの構成要素は、LVロゴに似たモチーフでデザイン。ブルーのミニッツトラックで囲まれ、時刻を表示するために時針と分針をセットするなど、ムーブメント(とその仕上げ)を可能な限り見せるように工夫がなされている。
ルイ・ヴィトン ヴォヤジャー スケルトン
このブランドの中でも、特にスペシャルな作品にのみ許されるモノコックデザインのヴォヤジャーケースは、直径41mm、厚さは9mmとなっている。両面サファイアクリスタルの採用に、ユニークなラグのデザイン、そしてポリッシュとサテン仕上げ両方の要素をうまく融合させている。
文字盤を形成し、この時計の名刺代わりとなる美観は肉抜きされたCal.LV60である。この新しいムーブメントは2万8800振動/時で、約48時間のパワーリザーブを確保。そしてホワイトゴールドのロジウムメッキがなされたマイクロローターを搭載している。巻き上げは両回転で行われ、5時位置にあるゼンマイ部分が大きく開いているため、パワーリザーブ残量を視覚的に確認することが可能だ。
ルイ・ヴィトン ヴォヤジャー スケルトンのムーブメント、Cal.LV60
LV60は、接平面に一方向へとブラッシングを施し、エッジには面取り加工をしている。ヴォヤジャー スケルトンをひっくり返すと、ブリッジの裏側に施されたサンドブラスト加工がインダストリアルな雰囲気を醸し出しているのがわかる。
ルイ・ヴィトン ヴォヤジャー スケルトンは、プラチナ製で150本の限定生産、小売価格は739万2000円(税込、完売済み)でデリバリーされる。
我々の考え
この新しいスケルトンは、これまでヴォヤジャーケース(とその雰囲気)によって実証されてきたオートオロロジー(高級時計)プログラムの延長にあるモデルとしては、十分にわかりやすいものだ。しかもそれ自身が持つ魅力として、ヴォヤジャーラインの中でも複雑ではない(そして安価な)入門的な位置付けとして提供されることは間違いないようだ。仮定としてヴォヤジャー フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ ジュネーブ(希望小売価格は23万ドル、日本円で約3042万8000円だ)と比較が許されるのであれば確かにそう言えるだろう。
ルイ・ヴィトン ヴォヤジャー スケルトンのリストショット
正直なところ、僕はスケルトナイズされたムーブメントがあまり好みではないのだが、これはルイ・ヴィトンとラ・ファブリク・デュ・タンがともにここまでつくり上げたものであり、実際にスケルトナイズのレベルが高いだけでなく、ムーブントに残された構成要素のデザインの意図は素直に高く評価したい。その結果、時刻を確認するもそれに夢中になり、目を離したあとに時刻を確認していなかったことに気づくような、そんな細部までデザインされた文字盤を持つ時計のひとつであるように感じる。
プラチナでできた複雑なシングルピースケースのデザインと、ブランドの真新しいムーブメントのあいだで、LVマニアが夢見るような限定モデルであることは間違いないだろう。
ルイ・ヴィトン ヴォヤジャー スケルトンのリストショット
基本情報
ブランド: ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)
モデル名: ヴォヤジャー スケルトン(Voyager Skeleton)
型番: Q7EN1K
直径: 41mm
厚さ: 9mm
ケース素材: プラチナ
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ネイビーブルーのアリゲーターレザーストラップとトリヨンレザーストラップの2本
ムーブメント情報
キャリバー: LV60
機能: 時・分
パワーリザーブ: 約48時間
巻き上げ方式: 自動巻き(マイクロローター)
振動数: 2万8800振動/時
石数: 29
追加情報: ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンで設計、開発
価格 & 発売時期
価格: 739万2000円(税込)
発売時期: 完売
限定: あり、数量限定150本
ドクサ(Doxa)は先日ニューヨークで開催されたイベントにおいて、小説家であり探検家でもあるクライブ・カッスラー氏との長年の交流を記念した特別仕様の時計を発表した。85冊以上の著作を持つカッスラー氏は、小説の主人公であるダーク・ピットの腕にオレンジ文字盤のサブ 300 プロフェッショナルを装着させ、ドクサのブランド認知に貢献してきた。新しいサブ 300T クライブ・カッスラー エディションは、この出版物の歴史とカッスラー氏が1979年に設立したナショナル・アンダーウォーター・アンド・マリーン・エージェンシー(National Underwater and Marine Agency、NUMA)による沈没船探索の卓越した技術に敬意を表したものである。
このスペシャルエディションは、カッスラー氏のすべてを讃えるかのようにスタンダードなサブ 300Tをベースとしており、サイズは直径42.5mm、厚さ14mm、ラグからラグまでの全長が44.5mmとなっている。今作の開発は2年以上前から始まったものであり、PVD加工によるエイジング仕上げが施されているのが特徴だ。興味深いことに、最大の難関はブレスレット、そしてケースとベゼルの仕上げと一致させることだったという。その結果として使い込まれたガンメタの輝きと、まるで忘れ去られた工芸品のような風合いが生まれたのだ。このドクサはピットが冒険中に無名の沈没船から発見した遺物のようにも思えてくる。
文字盤のデザインもまた特別で、サブ 300Tのいつものレイアウトの上に、エイジング加工された褐色のカラーリングとヴィンテージのコンパスローズを思わせるデザインが施されている。コンパスのデザイン部分には独自の処理が施されていて、光を受けて初めてわかる繊細な仕上がりを実現している。また、1931年7月15日生まれのカッスラー氏にちなみ、日付表示盤の7、15、31は赤く着色された。カッスラー氏は2020年に亡くなったが、父の名前を冠した時計を披露するために息子であるダーク・カッスラー氏がドクサ主催のイベントに出席。彼はNUMA在籍時に冒険を重ねた愛用の750T プロフェッショナルを着用していた。
時計を裏返すと、裏蓋には非常にクールな処理が施されており、NUMAがその活動の過程で発見した72隻以上の沈没船や遺物の名称がエングレービングされているのがわかる。また、素晴らしいことに、このスペシャルエディションの収益の一部はNUMAに寄付される予定だ。
限定品ではないものの、このモデルの各時計には個別のシリアルナンバーが入り(ベゼルスタンドの縁に、ドクサの通常のケースバックに見られるいつものマークと一緒に)、マッチするエイジング加工を施したスティールブレスレットとベージュのNATOストラップが付属して2690ドル(約37万円)で販売される予定になっている。ラバーストラップと、それに合わせたスティール製クラスプ(ラチェット式エクステンション付き)を希望する場合は490ドル(約6万7500円)が追加で必要になる。
今作は全体を通して、カッスラー氏とドクサ、そしてNUMAとのつながりを象徴する大胆かつ非常に特徴的な作品に仕上がっていると思う。僕は今日、早速この時計を見て(撮影して)みて、エイジング加工されたスティールの質感をとても気に入った。ドクサによると、PVD加工を施したのちにストーンウォッシュを施すことでエイジングを表現しているそうだ。ある意味あらかじめ傷がついているようなものなので、傷がつくことを心配する必要はない。
エイジング加工されたスティールの外観と質感だけでなく、文字盤も興味深い。しかし僕としてはプロフェッショナルシリーズらしいオレンジとコンパスのデザインはないほうがよかったと思っている。特にこの時計には、ダーク・ピットの小説を思わせるポイントが少なからずあるのだからなおさらだ。ピットは映画(最近ではマシュー・マコノヒー氏が2005年の『サハラ 死の砂漠を脱出せよ(原題:Sahara)』で演じていた)のなかでも、300 プロフェッショナルを着用していた。しかしながら、カッスラー氏の世界観を1本の時計に凝縮しようとしたときに色から質感、デザインに至るまでこの文字盤はNUMAとの関連性が高く、ほかのブランドでも同じことができるとは考えがたい。
ドクサはこの時計を何本作るか公言していない。だが筋金入りのカッスラーファン(たくさんいそうだ……、彼の本は1億部以上売れている)か、同じく熱心なドクサファンに向けたかなり限定的なプロダクトになるのではないかと思う。通常モデルの300Tに比べて800ドル(約11万円)の値上げとなるため、この点はより顕著になるはずだ。もしこの時計が好みに合っているのであれば、差額はそれほど問題にはならないかもしれない。しかしクラシックなドクサが欲しいということであれば、カッスラーモデルは標準的な300Tより少しばかり高価で、僕の好きなサブ 300と比べても200ドル(約2万7500円)ほど高い価格設定となっている。
Doxa 300t Clive cussler
ただでさえ風変わりなドクサのなかでも、さらに変わった時計だ。膨大な著作との関連性を超えた製品として、僕はこの時計の仕上げや文字盤のエイジング感、カラーリングをとても気に入っている。赤のアクセント(文字盤のカッスラー氏のサイン、ベゼルのマーク、リューズなど)は素晴らしく、この時計はNATOストラップによく似合うだろうと思う。また、上でも言及したように裏蓋はいいアクセントになっており、この時計の外観にマッチしている。
300T クライブ・カッスラーは、すでに確立された方程式を宗教的なまでに忠実に守っているブランドにとって、異質でありながら同時に親しみやすいモデルだ。本稿を読んでいるカッスラーファンを除いて、最初のドクサとしておすすめできるものではないが、事前情報やその後に見たプレス写真でから想像していたよりも僕はずっと気に入っている。
別に僕の300 シーランブラーの着用時間に挑戦させるほど腕に巻くつもりもない(というより、300 カーボンホワイトパールのように僕の心のなかに無断で住みつくだろう)。だが、個性的かつニッチでちょっとした遊び心のある要素の数々は、僕が多くのスペシャルエディションに求めるものであると同時にドクサをドクサたらしめるものとなっていると思うのだ。
基本情報
ブランド: ドクサ(Doxa)
モデル名: サブ 300T クライブ・カッスラー スペシャルエディション
型番: 840.80.031.15
直径: 42.5mm
厚さ: 14mm
全長: 44.5mm
ケース素材: 経年変化を楽しめるコーティングが施されたスティール製
文字盤色: タン(エイジング加工)
インデックス: プリント
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 1200m
ストラップ/ブレスレット: エイジング加工を施したスティール製“ライスビーズ”ブレスレットにベージュのNATOストラップが付属。オプションとしてブラックのFKMラバー製ストラップ、エイジング加工を施したスティール製クラスプ
Doxa 300t Clive cussler
ムーブメント情報
キャリバー: ETA 2824-2
機能: 時・分・秒、日付表示
パワーリザーブ: 38時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 25
価格 & 発売時期
価格: 2690ドル(約37万円)
発売時期: ドクサのウェブサイトおよび販売店にて販売中
このユニークピースに革新的な進化をもたらしたのは、最新鋭の3Dプリント技術とブランドに貫かれる確固とした時計づくりの理念だ。
最新カーボンファイバーケースにみる実用時計メーカーとしての矜持.
デジタル技術の発達によってウェアラブルツールの機能は格段に進化を遂げた。ネットを介したさまざまな情報の収集や、GPSによる位置の把握から移動速度の計測、さらに心臓の鼓動や血圧を検知し、体内の奥深くまで探査の網を張り巡らせる。これに対し、アナログの機械式時計も負けてはいない。大いなる創造力と伝統技術の革新によって、その限界をさらに超えていく。今年発表されたオリスのプロパイロット アルティメーターはまさにその証左だろう。
オリスは2014年に自動巻き腕時計で初めて機械式高度計を搭載した。正確な時間と高度をダイヤルに表示する機能は、パイロットやアルピニストに高く支持され、その独創的な機構と高い技術力は多くの時計愛好家も一目を置く。
新作は3年の開発期間をかけて、このユニークな魅力にさらなる磨きをかけた。シンボルである高度計のスペックを従来の高度4500m(1万5000フィート)から6000m(1万9700フィート)へと向上させ、ケース素材も新開発の軽量カーボンファイバーを採用した。さらにムーブメントも薄型のCal.793に一新し、56時間のパワーリザーブを実現するとともに、ケース厚も前作より1mm薄い約16.7mmに抑えている。
ブラックの文字盤に時分針を幾重にも取り巻く数字と目盛りは、まさにコックピットの計器を思わせ、たとえ航空機を操縦したことがなくても魅せられるだろう。だが操作はいたって簡単だ。
まずは4時位置のリューズを引き出し、赤いリングの表示の高度計を起動する。さらに1段引き出し、リューズ操作で6時の赤い三角形が管制塔などの指示する基準気圧を指すように合わせると、黄色い2本線のポインターが現在地の高度、赤色のポインターが絶対気圧を指す。リューズを1段戻せば、黄色のポインターが自動で現在の高度を示す。
設定はこれだけ。フライトの準備は完了し、いつでもあなたは操縦桿を握って大空へと羽ばたけるというわけだ。
オリス プロパイロット アルティメーター 88万円(税込)。時計の詳細はこちら。
6000mまで表示できるように高度計のスペックが進化した新型のプロパイロット アルティメーター。なお、写真のメートル表示タイプのほか、フィート表示タイプも用意されている。Photo Courtesy ORIS
ダイヤル側の表示はメートルかフィートのどちらか一方になるが、チタン製のスクリューバックケースにメートル/フィート表示換算スケールを施すことでどちらの表示にも対応する。Photo Courtesy ORIS
2時位置のリューズは時刻とカレンダー表示を操作するためのもので、高度計に関するものはすべて4時位置のリューズに集約。独創性だけでなく、ユーザビリティも追求されている。Photo Courtesy ORIS
文字盤の外周に記した高度表示は、白い数字が0〜3900mでひと回りしたあと、2段目の黄色い数字の4000〜6000mに続く。航行時はFL(フライトレベル)が記された赤い三角を6時位置の三角に合わせる。チタンのケースバックはねじ込み式で、メートルとフィートの換算尺が刻まれている。チタンはこのほかベゼルとふたつのリューズにも使われ、いずれもグレーPVDを施し、軽量性と高強度に寄与する。
実用的な自動巻きに機械式高度計を搭載する時計は唯一で、これは高度計をムーブメントに積層する際に巻き上げローターが干渉してしまうためだ。この回避のため、プレートを設け、両者を分離している。
機械式高度計の原理はけっして複雑ではない。メタル製のダイヤフラムが周囲の圧力に応じて変位し、その動きを針に伝える。だが時計の場合、問題になるのが気圧を感知する開口部から湿気が入り、防水性が損なわれることだ。これに対し、オリスは空気を通しても湿気は遮断する独自のPTFE防湿壁を開発し、特許を取得している。
新作ではこうした独自の機構を包み込むケースに、新たなカーボンファイバーコンポジット素材を採用した。これは、ETHチューリッヒ大学(スイス連邦工科大学)から独立した9T研究所とのパートナーシップから生まれたものだ。9T研究所は前例のないカーボンファイバー加工法を開発するため2018年に設立されて以降、宇宙開発や航空機器をはじめ多くの加工品を生み出してきた。オリスはその設立当初から時計のケース開発について協業を打診していたのだ。
こうして選ばれたのは、カーボンファイバーと高分子ポリマーPEKKの複合素材だ。PEKKは化学的にも強く、耐熱性に優れ、両者を合わせることで軽量性と強度を併せ持つ。これまでも複合素材として時計の外装に用いられていた素材だが、プロパイロット アルティメーターが画期的なのはこれをワンピース構造のケースで実現したことだ。ラグを一体成形したケースに、ムーブメントを直接収め、風防とチタンの裏蓋をはめ込む。さらにリューズをセットするという複雑かつ高い精度が求められる造形に加え、気密性も確保しなければならない。これを既存のカーボン成形技術で作るのは難しく、9T研究所は“積層造形と成型”を基にした独自の製造法を生み出した。着目したのは3Dプリント技術だ。
3Dプリントの技術革新は目覚ましく、今や最先端分野はもちろん、建築や医療、食品など非製造業まで広がり、新たな産業革命と呼ばれるほどだ。今回の9T研究所独自のソフトウェアによる3Dプリント技術も複合素材を安定した密度や形状で融合・最適化し、一定の品質で最終製品の量産を可能にした飛躍的な発明である。
3Dプリント技術は時計製造の現場でも今や欠かせない。だが開発時のプロトタイプとは異なり、量産に成功したカーボンファイバーケースは前作より70gも軽い約98gを実現している。なお、カーボンファイバーと高分子ポリマーPEKKの融合プロセスについては技術的なノウハウにかかわるため、明確な回答は得られなかった。
ハイテクな素材や製造プロセスから生まれたにもかかわらず、その表面には木の年輪を思わせるようなパターンが浮かび上がる。積層した素材が生み出す固有の美しさは、3Dプリントによる予期せぬデザインであり、プロパイロット アルティメーターを腕にハイキングや登山を楽しむナチュラリストにも好感を与えるに違いない。そしてサステナビリティにおける3Dプリント技術の可能性も示唆するものとなった。
加工を完璧にコントロールすることで素材のロスをなくし、従来の工法より効率を格段に向上させる。それは“未来のための気候中立型移動”を志向し、新しいデザインと製造工程を提供する9T研究所の活動に沿う。それと同時に海洋環境保全をはじめサステナブルに取り組み、社会貢献をミッションにするオリスの企業理念にも通じ、両者のまなざしは共通の未来に向いている。
来年オリスは創業120周年を迎える。だが歴史を振り返れば、その歩みはけっして平坦ではなかった。1934年に制定されたスイス時計法では、同国内での競争を防ぐために新技術の導入が制限され、オリスは安価な時計製造を強いられた。これに対し、10年にわたる法廷闘争の末、1966年にはついにスイス時計法を覆したのだ。さらに1970年代にグループ傘下になるものの、1982年に当時の経営陣が自社株を買い取り、クォーツウォッチを廃止し、機械式時計のみの製造を選択した。これによってオリスは独立系ブランドとして再起したのである。
そこには“Go your own way(自分の流儀を貫く)”という反骨精神とともに、“Real watches for real people(真に生きる人のための本物の時計)”を作るという揺らがぬ理念が根底に貫かれている。それは武骨さに本当の価値や人間の自由な精神性を宿すプロパイロット アルティメーターも例外ではない。だからこそ、この時計は極めてオリスらしいといえるのだ。
世界中のスウォッチブティックで発売された。これは、私たちが “ムーンスウォッチ狂騒劇”と呼ぶ、1年以上にわたる熱狂の最新作である。しかし、現状の解説の前にこれまでの経緯を整理しておこう。
ムーンスウォッチ第1世代
ニューヨークで行われたムーンスウォッチコレクションの大々的な発表までの道程を追い、タイムズスクエアのブティックを取材し、このバイオセラミック製の時計を手に入れようと待ちわびる多くの人々の熱狂を目の当たりにした。
この時計は販売戦略上オンラインでは購入できないため、人々は待ち望み、そしてどれだけ収集できたか、その功績を称え合った。ムーンスウォッチをコンテンツとしてA Week on the Wristに取り上げ、小誌の2022年ウォッチ・オブ・ザ・イヤーを受賞したことで、私はこのマニアックな時計に対する熱狂の章は閉じたと思った。だが、2023年(ダニエル・クレイグがミッション・トゥ・ネプチューンを着用したことが話題にもなった)、スウォッチは別の隠し球を持っていることを証明した。ミッション・トゥ・ムーンシャインゴールドである。
ムーンシャインゴールド
始まりは2023年2月、スウォッチが一部都市で特別リリースの予告をしたことだった。ロンドン、ミラノ、東京、チューリッヒである。そう、アメリカは含まれない(ニューヨークもだ)ということだった。幸運なことに、HODINKEE Japanの同僚たちが、世界で初めてこの新しいムーンシャインゴールドのムーンスウォッチを手にした人を撮影することに成功した。オメガ独自のゴールドコーティングを施した、クロノグラフ秒針を持ったモデルだ。
ムーンスウォッチ ムーンシャインゴールド
ミッション・トゥ・ムーンシャインゴールドを最初に手にした人 Photo: Masaharu Wada(本誌)
熱狂もいよいよそれで終わりかと思った。しかしそれは間違いだった。ミッション・トゥ・ムーンシャインゴールドは、その後ニューヨークを含む世界各地で発表されたのだ。編集部のマーク・カウズラリッチ(Mark Kauzlarich)がその時計にカメラのレンズを向けたとき、それがまったく同じムーンスウォッチ ムーンシャインゴールドではないことがわかった。この年で3回目の満月を意味する小さな変化、クロノグラフ針に刻印された小さな数字の“3”が盛り込まれていたのだ。「ああ、そうか」、私たちは次のように解釈した。「これは、この日に購入できた人のための特別な時計なのだ」と。
ムーンスウォッチ ムーンシャインゴールド
しかしそれでもまだ終わらなかった。5月に入り、我らがブランドン・メナンシオ(Brandon Menancio)はムーンシャイン第3弾の発売のためラスベガスに向かった。小さな数字で“4”と刻印されていると予想するも、それは安直すぎたようだ。その代わりにピンクムーン(野花が咲きはじめる4月の満月)へのオマージュとして、クロノ針にピンクのラメが施されていた。ムーンスウォッチの月次発表が2023年のテーマになることは、(その当時まだ決まっていなかったとしても)明らかだった。
ムーンスウォッチ
アメリカ・ラスベガスで発表されたピンクムーンのムーンスウォッチ。Photo: Brandon Menancio(本誌)
フラワー&ストロベリー
ムーンスウォッチ ムーンシャインゴールド
ムーンスウォッチ フラワームーン
1カ月の時が流れ、同じクロノ針に、夜咲きする花々が満月の形に見えることにインスピレーションを得たイラストが描かれたモデルがリリースされた。そして先日、世界各地で発表された最新のリリースが、ムーンスウォッチ ミッション・トゥ・ムーンシャインゴールド “ストロベリームーン”だ。そして、これはこれまででもっともクレイジーなバージョンかもしれない。
5月に発表されたものと同様、このモデルもストロベリームーン(イチゴの収穫時期である6月の満月)にインスパイアされたモデルだが、時計に表現する方法はより大胆だ。すなわち中央のクロノグラフ針全体にまるで壁紙のようにイチゴが並んでいるのだ。今年発表されたすべてのモデル同様、この時計は特定の月(この場合は6月のストロベリームーン)に製造され、その事実を証明する証明書が付属する。やれやれ、これはちょっとクレイジーな事件だ。しかしこの時計への注目と興奮を持続させる原動力となっているのも事実である。
ムーンスウォッチ ムーンシャインゴールド
ムーンスウォッチ ストロベリームーン
ムーンスウォッチ ムーンシャインゴールドのペーパー
ムーンスウォッチ ムーンシャインゴールド
ムーンスウォッチについて尋ねてくる知り合いが、私の主な活動領域である時計業界外の人々も含め、どれだけ多いことか。ムーンスウォッチが大衆文化のトレンドに、しっかりと溶け込んでいる証拠でもあろう。最近、あるパーティで友人が、近くのスウォッチストアがムーンスウォッチの発売直前に閉店してしまい、ムーンスウォッチを探す旅に出られなくなったと嘆いていた。私がクルマを購入したとき、ファイナンス部門の担当者は、彼の兄弟がミッション・トゥ・ナントカ(特定の惑星)を探すのに夢中になっていたと話してくれた。ちなみにこの話題を切り出したのは私からではない。
スウォッチ、そしてオメガのいずれも自らムーンスウォッチコレクションに大幅な調整を加える必要はない。魔法のレシピは効き続けている。購入希望者は、それが唯一の方法であることをわかっているから、世界中のスウォッチショップに集まり続ける。2カ月前にもスウォッチスタッフが記録しているように、ローンチ当日にはいまだに多くの人が訪れている。
ムーンスウォッチ ムーンシャインゴールドの列
4月にニューヨークで行われたムーンシャインゴールドのローンチ当日の列。Photo: Mark Kauzlarich(本誌)
このミッション・トゥ・ムーンシャインゴールドのキャンペーンは、ムーンスウォッチと時計コレクションの理想を結びつける方法として私に衝撃を与えた。通常のモデルは入手が難しいかもしれないが(例えば、ネプチューンとか……)、決して限定されているわけではない。労力を惜しまなければ、すべてのモデルを購入することも可能だ。だが、ムーンシャインモデルは有限であり、1カ月のうちその日にしか手に入らない。その日が終わると、その時計はムーンダストの如く塵となり消えてしまう。
ムーンスウォッチ第一世代
新しいストロベリームーンモデルは、この時計がいかにクレイジーな熱狂を呼び起こすかを予感させる。私たちは今、クロノ針にイチゴが描かれている様子を目撃しているのだ。次は、ムーンシャインゴールドの仕様が1本の針だけに限定されることから脱却するのだろうか? しばらく様子を見る必要がありそうだ。今回のリリースでは、もっとも多くの都市と国(スウォッチ的に、基本的にすべての都市と国)が含まれている。まあ、どこでも買えたわけだ。この限定版を購入するためのプレミアムは、通常モデルのムーンスウォッチの価格(日本円で税込3万8500円)よりわずか4400円高いだけだ。
このムーンシャインキャンペーンが今年いっぱい続く保証はないが、少なくともあと数回はこのようなスペシャルローンチを目にすると予想している。そして最寄りのスウォッチブティックに足を運び、売り切れを続出させる人々の需要と興奮が試されることになるだろう。それが次の満月にまた繰り返されるのだ。