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今年の新作発表をひと足早くプレビューしているところだ。詳細はまだ公開できないが、例年どおりフォーラムの開幕に合わせて新作が登場した。今年は、限定エディションのクラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー “ナイト ナビゲーション”がその幕開けを飾る。
Nomos Campus
昨年のフォーラムで大きな議論を呼んだ、日付窓がふたつも設けられていたタンジェント 2デイトの発表を覚えている方もいるだろう。しかし今年発表されたすべての新作には、幸いにも日付窓は一切存在しない。その代わりに登場したのが、今年高い評価を得たクラブ・スポーツ ワールドタイマーのシルエットをもとにした新作であり、3種類の超サイバーパンク(編注;近未来のディストピアを舞台としたSFのサブジャンルを意味する)なカラーリングで展開されている。
その名前は、外観に劣らずエッジの効いたグリッド、トレース、ベクターの3つ。ノモスは、航空機のコックピット計器や夜間飛行中に見下ろす都市の光景からインスピレーションを得ている。3つのモデルはいずれもサンレイ仕上げとブラック ガルバニック仕上げを施したダイヤルをベースに、コントラストの高いアクセントカラーをそれぞれにあしらっている。グリッドはオレンジをテーマに、エクリュ(編注;淡いベージュ色)カラー文字のブラウンのシティリングを装備。トレースはターコイズブルーを基調とし、ベクターはライトイエローのエクリュカラー文字をアクセントにオリーブのシティリングを備えている。いずれのモデルにも共通して、ホームタイムを示す24時間表示インダイヤルの針を備え、鮮やかなオレンジを現在地を示すダイヤル上部の小さなインジケーターにあしらっている。さらに、ミニッツトラック上の目盛りにより、ダイヤル上に記された都市のいずれに対しても時差を計算できるようになっている(サマータイムを除く)。
Vector Worldtimer Table
クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー ベクター。
Yellow Dial Closeup
Nomos Grid Closeup
グリッド。
これら3つのダイヤルはノモスの基準からするときわめて異例のデザインだが、それ以外は今春発表された8色展開のクラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマーと同一だ。ステンレススティール製ケースの直径は40mmで、クラブシリーズにとって新たなショートタイプのラグデザインを採用。ケース厚はわずか9.9mmと、驚くほどスレンダーに仕上げている。ねじ込み式リューズのチューブ部分には、リューズを緩めたときにのみ現れる赤いリングを設けており、100m防水の密閉状態が保たれているかを確認できる仕組みとなっている。
Crown Unscrewed
Caseback shot
Yellow On Wrist
この優れた装着感を支えているのが、今年新たに登場した完全一体型のワールドタイム ムーブメント、自動巻きCal.DUW 3202だ。ノモス自社開発の脱進機構であるノモススウィングシステムを搭載し、パワーリザーブは42時間を確保している。
クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマーの新作3モデル、グリッド、トレース、そしてベクターはいずれも各175本限定で、価格は77万2200円(税込)だ。
我々の考え
ノモスが新作であるクラブ・スポーツ ワールドタイマーを発表したのは、そう遠い昔のことではない。それだけに初回モデルからわずか半年で、この3色の限定モデルが登場するとは正直驚かされた。
率直に言えば、ノモスのチームは春のフェアで発表した6種類の限定カラーモデルがこれほど人気を集めるとは想定していなかったのだろう。それも無理はない。クラブ・スポーツ ワールドタイマーは、ノモスの通常ラインナップよりも明らかに高価格帯に位置するモデルだからだ。6色×175本、さらに通常カラーの2モデルを加えれば、相当な生産数となる。それでも、世界の正規販売店にごくわずかに在庫が残っている可能性を除けば(実際、イタリアの販売店で偶然見つけたという報告もオンラインで散見される)、6種類の限定カラーモデルはいずれも完売している。4月に発表されたモデルについても同じことを言ったが、今回もあえて繰り返したい。この価格帯(全体的な値上げの影響で、4月のモデルに比べてわずかに上昇している)においても、クラブ・スポーツ ワールドタイマーは依然として価値ある選択肢と言える。堅牢なGADA(編注;Go Anywhere, Do Anything/どこへでも行けて、何でもできる)スペック、そして完全自社製で完全一体型のワールドタイム ムーブメントを考えれば、その評価は揺るがない。
Blue Wristshot
トレース。
Yellow Dial Closeup Bottom
Blue Dial On Tray
したがって、今回これほど早いタイミングで新たな3モデルを投入したのは、依然として続く高い需要を逃さず取り込むための戦略と言えるだろう。もっとも、そのダイヤルデザインは、最初の6モデルとは“昼と夜ほど”の違いがある。実際に手に取って見ると、ブラックダイヤルに高彩度のアクセントカラーを組み合わせたコントラストが、レンダリング画像以上に鮮烈な印象を与える。ただし、反射防止コーティングの影響で、光の角度によってはダイヤルが青みがかって見えることもある。いずれにせよ、これらは間違いなく、実物を目にしてこそ真価がわかる時計だ。
個人的にこのなかで最も引かれたのはベクターだ。当初はオレンジのグリッドがお気に入りになると思っていたが、実際に見るとグリーンがかったイエローのアクセントをあしらったベクターは、ほかの2モデルほど強く主張しない。そして特筆すべきは、ケースに備えられたワールドタイム用プッシャーの操作感だ。これは、ウォッチメイキングの世界でも屈指の満足感をもたらす体験と言ってよい。
Yellow Wristshot on leather
ワールドタイマーのダイヤルデザイン(そしてその複雑機構)は、一見するとノモスの礎となっているバウハウスの理念と相反するように思える。だが、今回の3モデルにおける配色(そしてその背後にあるインスピレーションの物語)は、さらにその枠を大きく踏み越えている。ノモスに対してこの言葉を使うとは思わなかったが、この3つの“ナイトナビゲーション”は、これまでの同ブランドには見られなかったタクティクールなデザインだ。そして、ふっと考えてしまう。ブランドが成長し、新たな領域へと進化していくうえで、ブランドが新しいことに挑戦する際、あのインスピレーションを手放すことはもしかすると避けられないことなのだろうか?
これらの新作は、これまでノモスのデザインに共感できなかった層を確実に引きつけるだろう。となれば、次にベルリンのデザインチームがどの方向へ舵を切るのか。それこそが、今後注目すべきポイントであろう。
基本情報
ブランド: ノモス グラスヒュッテ(Nomos Glashütte)
モデル名: クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー ナイトナビゲーション(Club Sport neomatik Worldtimer Night Navigation)
型番: 790.S7 (トレース)、 790.S8 (グリッド)、790.S9(ベクター)
直径: 40mm
厚さ: 9.9mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: カラーアクセント付きのガルバニック加工が施されたブラックダイヤル
インデックス: プリント
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: SS製のクラブ・スポーツブレスレット
ムーブメント情報
キャリバー: DUW 3202
機能: 時・分表示、スモールセコンド、24時間のホームタイム表示、ワールドタイム表示
直径: 31mm
厚さ: 4.8mm
パワーリザーブ: 42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 37
クロノメーター認定: なし
価格&発売時期
価格: 77万2200円(税込)
発売: ノモス公式オンラインストアおよび正規販売店
限定: あり、各175本限定
ヴァシュロン・コンスタンタンは、世界で最も立派かつ重要な美術館のひとつであるニューヨークのメトロポリタン美術館と新たなパートナーシップを結んだことを発表した。ヴァシュロンとメトロポリタン美術館は、教育と芸術の両面の取り組みで協力し、将来の世代のために知識を深めるとともに、非常に興味深い時計に関する未来のコラボレーションを約束した。
ヴァシュロン・コンスタンタンの創業は、1755年9月17日にジャン=マルク・ヴァシュロン(Jean-Marc Vacheron)によって交わされた契約から始まる。その契約文書のなかで、ジャン=マルク・ヴァシュロンは5年間にわたって若い弟子に自分の芸術を教えることを約束した。現在、ヴァシュロンのウォッチメイキングの核となる技術は40程度あり、その培ってきた技術は、何十年にもわたって絶えず再考、適応、改良され、前の世代によって開発された芸術性と技術に依存しているとメゾンは述べている。しかしそれ以上に、ヴァシュロンには “One of Not Many Mentorship Program”というものがあり、音楽を含む芸術分野全般にわたって広く知識を伝えている。
それならばヴァシュロンが、年間を通じて2万9000以上の教育イベントやプログラムを開催するザ・メットと提携することは理にかなっているように思う。またブランドは、今回の新たな提携をとおして、ふたつの教育機関が協力し合いながら、より多くの教育的イニシアチブを将来的に展開していくことを明言しているが、それらのプログラムがどのようなものになるかについての詳細は不明である。中学生を対象としたエナメルワークショップとか? それとも時計製造技術を体系化し、ある種恒久的な展示をするのか、はたまたこの時代の時計製造の長期的な記録とするような、時計仕上げのプロジェクトが登場するのだろうか? あなたの推測は私と同じくらい正しいので、ぜひコメントに寄せて欲しい。
ヴァシュロン・コンスタンタンCEOのルイ・フェルラ(Louis Ferla)氏と、ザ・メットのマリーナ・ケレン・フレンチ・ディレクターであるマックス・ホライン(Max Hollein)氏。
この発表についてもう少し調べてみると、ザ・メットとのパートナーシップによっていくつかの腕時計が誕生することは確実だった。それらは、ヴァシュロンの“ルーヴルコレクションへの入札”オークションや、今年初めに取り上げた“ピーテル・パウル・ルーベンスへのオマージュ”で目にしたような、ユニークな時計に似たものになると予想している。
いずれの場合も、顧客はヴァシュロンのレ・キャビノティエ工房の職人の助けを借りて、お気に入りのルーブルコレクションの作品を自分だけのユニークな時計に仕上げることができた。またそれに続く“メティエ・ダール 偉大な文明へ敬意を表して”コレクションでは、4つのデザインの時計がそれぞれ5本ずつシリーズ化された。美術館とのパートナーシップから生まれる時計デザインの幅広さを示したのは、実はこれらの時計だった。
2020年のときと同じように、私はザ・メットとのパートナーシップから何が生まれるか想像し始めた。プログラムは今のところ、コレクションのなかでメットが所蔵する最も有名な作品を避けている。ヨハネス・フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』は除外されているし、フィンセント・ファン・ゴッホの『麦わら帽子をかぶった自画像』もそうだ。エマヌエル・ロイツェの『デラウェア川を渡るワシントン』はちょっとありがちかもしれない。そして正直に言うと、私はほとんどの時間をメトロポリタン美術館のアメリカ館でハドソン・リバー派の絵画を見て過ごすことが多い。
私がこれらのアーティストを愛しているからといって、素晴らしいミニチュア(時計)と同列に扱われるわけではない。実際、時計の文字盤にするために選ぶアートとしては不適切である。あまりにも壮大で、細かすぎるのだ。アルフレッド・ウィリアム・ハントの『4月の雹を伴う嵐の後のスノードン山』なら、ミニチュアの柔らかな風景画になるかもしれない。少なくともフレデリック・エドウィン・チャーチの『アンデスの中心』よりはいいだろう。もしユーザーのどなたか、私を喜ばせてくれるような作品を依頼したいと思っているのならチャールズ・シュレイフォーゲルの『私のバンキー』をおすすめしてもいいだろうか? それは絵画の“アクション”の感覚を維持しながら、小型化するのに十分なダイナミックさがあるように思う。いずれにせよ、このプログラムがどんな作品を生み出すのか楽しみだ。
静謐な歩廊を飾るアートや高級品のなかでもひと際目を引くのがパルミジャーニ・フルリエのタイムピースだ。歴史に培われ、タイムレスな気品漂う空間で同じ価値観を共有する。伝統を現代に継承するという点ではこれほどふさわしい時計はないだろう。それもブランドの原点は、時計師ミシェル・パルミジャーニ氏が1976年に設立した修復工房にあるからだ。
時が止まってしまった古の時計を当時のままに復元するその天才的な技は、すぐにサンド・ファミリー財団が注目した。スイスの製薬大手のサンド社を背景にした財団が所有する歴史的な時計やオートマタの修復管理責任者に任命されたのだ。ミシェル氏は修復の仕事のかたわら自身で時計作りにも専念していて、1996年にパルミジャーニ・フルリエを設立。これを支えたのもやはり同財団で、先のボー・リヴァージュもその傘下にある。
こうした絶大なバックアップにより、2000年以降、パルミジャーニ・フルリエは独立系ブランドとして垂直統合の生産基盤を整えた。企画開発の本丸であり、いまも修復部門を持つ本社に加え、ケースのレ・アルティザン・ボワティエ、文字盤のカドランス・エ・アビヤージュ、ムーブメントパーツのアトカルパとエルウィンといった専業メーカーを統合し、特にパルミジャーニ・フルリエからムーブメントの開発製造部門が独立したヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエは名だたるスイス高級時計のムーブメント開発を担い、広く知られている。
これらの特化した専門技術を持つ拠点で内製化することで、独創的な技術開発と高い品質レベルを維持し、ジャストインタイムの生産を図る。しかもそれぞれが他ブランドにも生産供給することで、幅広い技術とノウハウの研鑽と安定した経営基盤を築く。こうした理想的なマニュファクチュール体制によって、パルミジャーニ・フルリエのオリジナリティは生 まれているのだ。そしてその根底にあるのは、修復で学び、その技と精神を現代に伝える創業者ミシェル・パルミジャーニ氏の創造性に他ならない。
スイス時計の隆盛とともに大きな変革期を迎えるなか、パルミジャー ニ・フルリエにも新たな歴史が始まった。ブランド誕生25周年に当たる2021年、グイド・テレーニ氏のCEO就任だ。20年以上に渡ってブルガリの時計部門を牽引し、垂直統合の生産体制始め、本格ウォッチメイキングの軌道を敷いた。その辣腕が発揮されたのが、リローンチした「トンダ PF」だ。
ベーシックな3針は36mmから40mmというユニセックスやヴィンテージ感ある程よいケースに、ベゼルには細密なローレット加工を施す。これはモルタージュとも呼ばれ、ギリシャ建築の柱から着想を得た、ブランド黎明期から続く手彫り装飾だ。さらにケースから伸びた雫型のラグには、自然界の生み出した神秘の美であるフィボナッチ数列による曲線を用いる。そして文字盤にはバーリーコーン(麦の穂)パターンのギヨシェが施され、インデックスとロゴのみにそぎ落とされたミニマルなフェイスに美しさが際立つ。
こうしたブランドの象徴的な意匠を、クラシックではなく、一体型ブレスレットを備えた現代的なスタイルを組み合わせた。それもパルミジャーニ・フルリエをよりモダナイズし、新たなラグジュアリーを打ち立てようというテレーニ氏の挑戦である。
2022年に発表されたトンダ PF GMT ラトラパンテでは、現代的な実用機能であるGMTを搭載する。時針はロジウムメッキのゴールドとローズゴールドの2本を重ね合わせ、その1本を時差に合わせて8時位置のプッシュボタン操作で1時間毎に進ませ、異なるふたつの時間を表示する。リューズと一体になったプッシャーを押せば、針は瞬時に重なり、その存在も感じさせない。通常ラトラパンテはクロノグラフの機能を差すが、ここではトラベルタイムを意味するのである。
これに続き、今年発表されたトンダ PF ミニッツ ラトラパンテはよりユニークな機能だ。GMTが時針だったのに対し、2本の分針を重ね合わせ、ケース左側面の8時位置のプッシャーで5分、10時位置のプッシャーで10分毎に1本の針を進ませる。針はそこに止まり、カウントダウンを計時する。そしてリューズと一体になったプッシャーを押せば、再び針が重なるスプリットミニッツである。
いわゆるラグジュアリースポーツと呼ばれるスタイルではあるものの、より洗練を極め、独創的な実用機能を内に秘める。特別な複雑機構を備えながらも、ひけらかすのではなく、必要なときにだけ現れるアンダーステイトメントな表現手法は、まさにクワイエットラグジュアリーと呼ぶにふさわしい。 パルミジャーニ・フルリエは、先人の叡知を注いできた時計が時にはアートのように寄り添ってきたことを思い起こさせる。修復を通して学んだその文化と価値を受け継ぎ、現代からさらに未来に繋げんとする意思が唯一無二の存在とさせるのだ。
今回のイベントは15名のみのエクスクルーシブなイベントとなったため、応募いただいたものの参加が叶わなかったという方もいるのではないだろうか? そんな方たちのために、まさにフリーク尽くしとなったイベントの様子を、ほんの少しだがお届けしよう。
関口 優と和田将治のふたりが、フリークコレクションの誕生から現在に至るまで、注目すべきマイルストーンをナビゲートした。
スライドを交えながら、フリークコレクションの誕生に関わった4人の重要人物の存在や、秘められたテクノロジーなどフリークの魅力を解説。そしてイベントに参加された方だけに裏話も披露した。
時計界に大きな足跡を残した、異形の異端児
初代フリーク(2001年)。古典的な複雑機構「カルーセル」を掘り起こし、時計界初となるシリコン(シリシウム)の採用、従来の時計とは異なる前衛的なスタイルでセンセーションを与えた。
文字盤がない、針がない、そしてリューズがない。その名が示すとおり、フリーク(=異例、異形)は、従来の腕時計のスタンダードから逸脱した、まさに名は体を表す腕時計として2001年に誕生した。もちろん、そのスタイルもそうだが、フリークが何より革新的で挑戦的であったのは、単にそのデザインがアバンギャルドであっただけでなく、時計業界に大きな影響を与えた点にある。
ひとつは歴史の陰に埋もれていた古典の機構を掘り起こし、進化させたセンターカルーセル機構だ。これはテンプを含めたムーブメント自体を回転させ時刻表示する機構で、キャロル・フォレスティエ=カザピ女史(1997年に考案)のコンセプトを元に、ルードヴィッヒ・エクスリン博士の手によって実現化した。古典的な機構に着想を得て進化させる。機械式ならではのムーブメントに価値をみいだし、マニュファクチュールの優れた技術力と独創性を世に知らしめるという試みは、時計業界を活気づけた。
またセンターカルーセル機構の実現において、輪列やテンプ、脱進機が載る大きく重い分針を動かすために、フリークはエネルギー効率に優れた新しいデュアルダイレクト脱進機を搭載したが、これには軽量化と超精密加工が必須。そこで脱進機に時計界で初めてシリコン(シリシウム)が用いられた。今では多くの時計ブランドが使用するシリコンパーツだが、これをいち早く実用化したのがフリークだったのだ。
フリーク ワン(2023年)。文字盤・針・リューズのない初代モデルにインスピレーションを得ながら、最新技術を盛り込んだフリークの最新形。2023年のGPHGでアイコニックウォッチ賞を受賞した。
その後もフリークは、新技術・新素材の実験場として、斬新なデザインのキャンバスとして進化を続けることになるが、イベントではその革新と挑戦の歴史の一端を読者の皆さんと共有した。フリークのことをもっと知りたいという方は、記事「Identity of the Freak: ユリス・ナルダン フリーク 進化の系譜をたどる」をチェックいただくとともに、ぜひとも以下にリンクもご覧あれ。
フリークの歴史を知る
シリシウムテクノロジーとは?
トークイベント終了後はコレクターミーティング、そして待望のタッチ&フィールへ
フリークの歴史を振り返るトークイベント終了後は、来場して下さった読者の皆さんと編集部も参加してのコレクターミーティングの時間に。そして、なんと言っても目玉のコンテンツは、歴代フリークのタッチ&フィールだ。2001年に発表された初代フリークをはじめ、マイルストーンとなった歴代モデル(一部)から現行のフリークコレクションが並べられ、そのすべてが実際に触って着用することができる。フリークコレクションはユリス・ナルダンのアイコンともいえるモデルだが、製造数は決して多くはなく、どの時計店でも扱っているようなコレクションでもでもないため、実機を実際に見ることができるまたとない機会となった。
現行のフリークコレクションも、もちろん実際に触ることができた。実際に時計に触れたことで物欲が刺激され、購入を検討する読者の方も…。
フリークのヒストリーを語る上で欠かせないマイルストーンモデルに触れることができる貴重な時間であったが、多くの読者の方が興味を示していたのは、やはり現行のフリークコレクション。2022に発表されたフリークS(クロノメトリック フリーク)はすでに完売となっているため購入はできないものの、リューズを備えて日常的に使いやすいところが魅力のフリーク X、そして2023年のジュネーブ時計グランプリ(GPHG)でアイコニックウォッチ賞を受賞した話題の新作フリーク ワンも実際に触れるとあって、多くの読者が興味津々の様子だった。
タッチ&フィールで読者の皆さんがフリークを着用している様子を撮影したが、やはり気になるのは、HODINKEEのイベントでは恒例となった来場者のリストショットも、もちろん押さえている。皆それぞれに自身のこだわりが感じられるセレクトで、飽きることなく見ていられた。
さらりとつけたワンショットのマリーン 1846(※)が最高にカッコいい! 実はストラップはシャークスキンのカスタムメイド仕様だという。
※記事公開時、マリーン トルピユールとなっていましたが、ご本人様よりワンショットのマリーン 1846であるとご指摘いただき修正しました。ありがとうございます!
約2時間のイベントは、あっという間に時間が経ってしまったが、濃密な時間を読者の皆さんと過ごすことができた。また近いうちに、読者の皆さんとお会いできる日が訪れることを願っている。
ヴィンテージウォッチの世界で注目すべきもの、そして(記事執筆当時)入手可能なものの一部をお届けしていく。この記念すべき日にふさわしく、今週のリストは市場に出たばかりのオメガのクロノメーターや、初代ファーブル・ルーバ、そして誰もが認める至高のステンレススティール(SS)製ポール・ニューマン デイトナなど唖然とするようなものばかりが揃った。そしてそれだけではなく、画家が愛用したサブマリーナーや、イタリアの空挺部隊が着用したブライトリングにも注目してみて欲しい。
1967年製 ロレックス サブマリーナー Ref.5512
どうしても欲しいものがあるのでなければ、予算が許す限り最高のコンディションを選ぶのが得策だ。不動品のほうがいくらか安上がりで手に入れやすいかもしれないが、保存状態が良好なもののほうがオリジナルデザインの持ち味を余すところなく伝えられるという点で、客観的には望ましい。これは私が年老いて白髪になるまで変わらない持論である。しかし、特別な場合には、また違った考え方が必要になる。ヴィンテージ時計収集の一般的な理屈に反するかもしれないが、この最初の1本は多くの魔法を秘めている。
サブマリーナーと呼ばれる少し古めかしい時計についてはすでにご存じのことだと思う。さて、この時計がなぜこれほどまでに魅力的なのかを説明しよう。思い浮かんだ言葉を口にする前に、その出自について考えてみて欲しい。この時計は、画家が所有し、毎日着用していたものだ。ケース、クリスタル、ベゼル、ブレスレットが絵の具でまだら模様になっているのはそれが原因だ。さらにケースバックには“I LOVE YOU MR BOND, SHARON”という刻印もあり、パーソナルな雰囲気を醸し出している。多くの人にとって、このふたつの要素と、摩耗して補修されたダイヤルの組み合わせは、極めて危険なものに見えると思う。だが、私はこの時計にはユニークな魅力があると思いたい。
私は、リセールや 資産価値を気にすることなく、生涯の大半で着用され、まるで盗難にあったかのような状態になった時計が大好きだ。このような時計は決して美しいとは言えないし、簡単に売却できるものでもないが、新品が持つ美しさにはない人間味がある。貸金庫に何十年も眠っていたものとは違い、これらの時計にはストーリーを伝える傷跡があり、以前身につけていた人たちとの切っても切れない絆が刻み込まれている。私はやはり最高のコンディションのものを選ぶことをおすすめするが、これはそれとは異なる最良の選択だと主張したい。
サザビーズが最新のオンラインセールでこのサブマリーナーを出品している。その見積もり価格は5000ドルから7000ドルに設定されており、あらゆることを考慮すると妥当と思われる。
オメガ クロノメーター Ref.2364
次の時計の出品を見つけたときは、とてもうれしかった。まさに私が思い描くeBayの出品物であり、このコラムが推進するハイ&ローの探究心を象徴するものだからだ。保存状態のいい時計に無名の売り手、写真ではうまく伝わらないが、ひと晩中見ていたくなるような写真……。幸運なことに、偶然にもそれはめったに市場に出回らない素晴らしい時計であり、この出品されたばかりの時計を所有する絶好のチャンスであった。
ご覧いただいているのは、オメガ クロノメーター Ref.2364だ。このモデルがオメガと時計製造全体の歴史において重要なピースであることは、すでにご存じのことだろう。その重要性の理由は、もちろんスモールセコンドを搭載した17石のCal.30T2RGにある。同ムーブメントは、このモデルに初めて搭載された。オメガはこのキャリバーでピリオドクロノメーターのコンクールで大成功を収め、その卓越した性能に全力を注いでいたことはCal.30T2RGの仕上げを見ても明らかである。私の考えでは、このリファレンスの最も魅力的な個体はSS製ケースのものであり、非貴金属からでも途方もない美しさを生み出せることを証明している。
ケース番号は見えないかもしれないが、これは1941年のものだと推測される。80年近い歳月を経ているにもかかわらず、この時計に見られるのはわずかな磨耗だけで、優美に時を刻んでいる。これはツートンカラーのダイヤルを見ればよくわかることで、インダイヤル内側のわずかな傷と、トーンを隔てるリングの周囲にあるわずかな粒子を除けば、傷ひとつないように見える。私がこれまで見てきた、黄ばんだり、傷んだり、研磨されすぎたりしているものと比べると、この作品にはそれだけの価値がある。
このオメガはeBayのオークションに出品され、土曜日の夕方に終了する(執筆当時)。現在、最高入札額は4949ドルとなっている。
ファーブル・ルーバ ディープブルー Ref.59603
このコラムを書くようになってから、より多くの時計を扱わせてもらえるようになった。コレクター仲間の手首にあるものや展示会のブースで初めて目にするものなど、記事にする前に特定の作品について予備知識を得ておくのは、当然のことながらとても素晴らしいことだ。このことを念頭に置いて、今回は私が少し前に出会った珍しいダイバーズウォッチを紹介しよう。この時計には型破りなデザインがふんだんに盛り込まれている。きっと満足のいくものだと思う。
この時計を最後に見たのは、パンデミック前の時期に出席していたコレクターの集まりで、これを出品していた個人が納品に来たときだった。ファーブル・ルーバのディープブルーの初期型であるというこの時計は、私を大いに驚かせた。そうした経緯もあり、この時計はすぐに私の手に渡ることになった。湾曲したダイヤルの文字と、ラジウム夜光の使用を示す小さな文字が施されたこのモデルがRef.59603の初回限定品であることは間違いなく、なかなか見栄えもする。
総合的に見てこの個体は素晴らしい状態で、ダイヤルにはブランパンやその他有名なダイバーズウォッチメーカーの名前はないが、本当にトップレベルのダイバーズウォッチである。ケースはシャープなままで、ベゼルは依然として読みやすく、ひび割れもない。しかし特筆すべきはサンバースト仕上げのダイヤルであり、最高の輝きを保っている。唯一の欠点は、10時位置のロゴの近くに少しシミのようなものがあることだが、それだけでこの時計を追い求める気が失せるほどではないだろう。