カテゴリーアーカイブ: スーパーコピー時計
パテック初のセンターセコンド・パーペチュアルカレンダーをこれほどまでに際立たせている細かいディテールを徹底的に紹介した。製造番号やデザインの詳細について疑問をお持ちの読者は、これで答えが得られたのではないだろうか。しかし率直に言って、それだけではつまらない。いつものことだが、楽しいのは信じられないほどレアなものとの邂逅である。
後編では、(おそらくこのような時計を買うことはない)私のような人間が本当に楽しめるもの、つまり最も希少な類の個体をつぶさに取り上げていきたい。これはヴィンテージ・フェラーリのディーラーでウィンドウショッピングをするようなものである。純粋な憧憬でもあり、同じくらい満足できるものだ。いつか、この時計を手首に巻いたり、250 GTルッソのシートに座ったりできる日が来るかもしれない。願うのは自由である。少なくとも、その体験がいかに希有なものであるかを知るために必要な知識は本記事からすべて得られるだろう。
さらに本記事の後半では、このような希少な時計を実際に購入する幸運に恵まれた人々のための購入手引きについて、私の考えを紹介しよう。警告しておくが、腹落ち(はらおち)するのが大変なため(前編よりもさらに長文)1度に全部読もうとしないで欲しい。これは少しずつ読むのが最適な記事だ。
レア中のレアモデル
Ref.2497の素晴らしい個体は数多く存在するため、新しい個体がマーケットに登場し続けている状況にある。全部で114本製造されたうちの56本しか発見されていないため、理論上これまで公にされていないものが見つかる余地はまだある。2024年7月初め、スペインのオークションハウスでピンクゴールド(PG)の新しい個体(ムーブメント番号042)が出品され、100万ドル(日本円で約1億5000万円)を超える値がついた(あるディーラーは120万〜140万ドルだと予想していたようだが)。その理由のひとつは、ケース素材の希少性(PGのRef.2497が見つかったのはこれで10本目である)と完璧なコンディションである。だが、このリファレンスを研究する(あるいは探す)のであれば、知っておくべき注目に値する個体はひと握りである。
ブレゲ数字ダイヤル
私の心のなかには、群を抜く1本のRef.2497がある。約1年前、私は再びオークションに出品されるのを目にしたい5本のリストを作成した。それには次の理由がある。1)家を飛び出し、自分の目で確かめたいから、2)希少な時計が到達し得る価格の限界に対する私たちの理解を完全にリセットしてくれるから。これはそのリストの筆頭の時計であり、言うまでもなくその価値がある。
プラチナケースにブレゲ数字。これだけ知れば十分だろう。ムーブメント番号888,075のこの時計は、パテック フィリップの時計のなかで最も印象的(おっと、オークションハウスの常套句を使ってしまった)なもののひとつである。このリファレンスのプラチナケースは2本のみで、いずれもウェンガー社製ケースであったが、プラチナ製であるという事実だけで、ヴィシェ社製ケースのデザインに対する好みを凌駕する。実際、パテックは(私の知る限り)1980年代にRef.2499Pを発表するまで、プラチナケースのパーペチュアルカレンダーを製造することはなかった。この2本のなかで私がいちばん好きなのは、ダイヤルのハードエナメルのブレゲ数字を持ったほうに尽きる。囲みのない非常に渋いミニッツトラックも好感が持てる。スポーティさとエレガントさのバランスが絶妙で、唯一無二のパッケージだ。
この時計は、オリジナルオーナーの家族によって2008年に初めてクリスティーズに出品され、競り落とされて以来、公の場では見ることができなかった。この時の出品は凄まじく、フィリップ・スターン(Philippe Stern)氏とアルノー・テリエ(Arnaud Tellier)両氏がブリッグス・カニンガムJr.のスティール製Ref.1526を見事競り落としたのも同じ場であった。 では、Ref.2497Pの落札価格は? その場に居合わせた人なら分かると思うが、320万7400スイスフラン(当時の相場で約3億720万円)で、HODINKEEの友人であるアルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)氏の手に渡った。繰り返すが、これは2008年の落札価格だ。今日ならいくらで売れるだろう? 何人かに聞いてみたところ(そのうちの何人かは、当時この時計に実際に入札していた)、全員が同じ相場観を持っていた…涼しい顔で750〜1000万ドル(日本円で約11億2800万〜15億円)と言ってのけ、果ては1200万ドル(日本円で約18億500万円)などという声もあった。16年で400万ドルも跳ね上がるのは、まさに驚愕のひと言である。700万ドルともなれば、ニュースの見出しを飾るだろう。
ダイヤモンドインデックス入りのプラチナケース
2本のプラチナ製ケースのリファレンスのうち、最初に取り上げる1本を選ぶのは困難だったが、だからといってこの個体が特別なものでないと誤解しないでほしい。ムーブメント番号888,029のこの個体は、リファレンスを完全無欠な美で体現したもので、おそらくこれまでに製作されたパーペチュアルカレンダーのなかで私が最も好きなモデルである。この時計は、非イエローゴールド(YG)のほとんどすべての金属素材と同様、ウェンガー社製ケースに収められ、ダイヤルの4分の3、つまり3時、9時、12時位置にバゲットダイヤモンドのインデックスがあしらわれている。また、ローズゴールド(RG)のリーフ針がダイヤルに遊び心を加えている。そしてブレスレットに注目して欲しい。
2本あるプラチナケースのRef.2497のうちの1本(ダイヤモンド入り)。Photo: courtesy John Goldberger
ポリッシュ仕上げされた薄いブリック型ブレスレットは、Ref.2497と一緒に販売されているほかの希少なオリジナルブレスレットと同様、おそらくゲイ・フレアー社製のものだろう。ケースにぴったりと寄り添うようにカットされ、ほぼ一体化したデザインを実現している。
この時計について語ることは、ほかにはあまりない。この時計は1997年にアンティコルムにて約75万ドル(現在では滑稽なほど安価だ)で落札されて以来、一般市場では取引されていない。この時計は個人の時計コレクターの手に渡り、あと少しで実物を見ることができるところだった。その時、私はスマートフォン内にある最近の画像を見せてもらったが、ジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏がオーナーのために撮影したプロフェッショナルな写真を共有したのは本記事が初めてとなる。
“セラシエ”とそこに潜む注意点
時として、特別な時計には複雑な歴史があり、また注意が必要なものもある。2015年、クリスティーズはRef.2497の最も目を見張るような個体のひとつを販売しようとしたが、壇上に上がる手筈が整ったほんの数分前に、所有権に関する論争のために販売から撤回された。権利問題を複雑にしているのは、この時計がかつてエチオピア皇帝、故ハイレ・セラシエ1世(Haile Selassie)の所有物だったということだ。
ムーブメント番号888,058のこの個体は、YGのウェンガー社製ケースと夜光針を備えたユニークなブラックの第1世代ダイヤルを備えている。この時計は最終的に、アルフレッド・パラミコ氏とダヴィデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)氏という2人の有力ディーラーの入札合戦の末、2017年に落札され、後者が289万8000ドル(当時の相場で約3億2500万円)で勝ち取った。ブラックダイヤルとYGケースのパテックは、このブランドで最もコレクション価値が高いモデルのひとつであるため、この落札結果は当然といえよう(現在ならもっと高額となる可能性もある)。しかし、これらのブラックダイヤルには注意が必要だ。
YGケースのブラックダイヤルを持つRef.2497は、2009年のアンティコルムにいちど登場した、夜光針を備えた第2世代である。これはRef.2497のなかでもとりわけ垂涎の的となるはずだ。奇妙なことに、この個体は“アーカイブの抜粋”(そこに何が記載されていたのかは不明だが)付きで出品されたにもかかわらず売れ残ったのである。その時計を手に取ったことのあるごく少数の人たちに尋ねたが、その理由について明確な答えは得られなかった。ある信頼できる時計コレクターは、“気に入らなかった”と言った。もうひとりは、彼らの記憶ではダイヤルがリダンされたように見えたと言った。実際に見たわけではないため完全に否定するつもりはないし、出自の正しい価値のある時計である可能性もまだ残されているが、再び登場した際のマーケットの反応は気になるところだ。
フラートン
“フラートン”は、世界で最も重要なRef.2497であるという根強い意見が支持されている。これはパテック初のCal.27SC Qムーブメントで、ムーブメント番号は888,000と刻印があり、1951年に製造されたユニークケース(ケース番号は663,034)に収められている。この時計は、1953年のバーゼルフェアで発表された新作のプロトタイプであった。最終的には歴史上最も重要なコレクターのひとりであるヘンリー・グレーブス Jr.(Henry Graves Jr.)の孫であり、自身も重要な時計コレクターであるピート・フラートン(Pete Fullerton)に売却され、パテックとの深い絆の証となった。
2015年、サザビーズで初めて販売されたフラートン。
大げさな表現が多いためシンプルな言葉で説明しよう。この時計は珍しいケースデザインであり、スリーピースケースに長くカーブした、ほぼポリッシュ仕上げに近いラグが付いている。ダイヤルのアプライドインデックスは個性的で大胆、実質的に未来的な立体型フォントを採用している。この組み合わせはRef.2497ではほかに類を見ないものであり、もしあなたがこの時計を実際に目にしたら、“フラートン”だとすぐに分かるだろう。
2021年、クリスティーズで初めて販売された時のフラートン。
フラートンが所有して以来、この時計は2度落札されている。2012年にサザビーズで68万8000スイスフラン(当時の相場で約5860万円)、そして2021年にクリスティーズで150万7144スイスフラン(当時の相場で約1億8100万円)だった。これほど値が上がらなかったことに正直なところ驚いている。見方によっては、Ref.2497を完璧に表現していないからかもしれない。時計コレクターのなかには、そのリファレンスの象徴的なデザインを求める人もいるからだ。しかし2億円という金額は、どの通貨に置き換えても大金である。
シドニー・ローズ
一方、私のお気に入りのもうひとつ、“シドニー・ローズ”は読んで字の如くである。これはRGの第2世代(第1世代ダイヤル、ウェンガー社製ケース)で、夜光の入ったRGのドフィーヌ針が印象的な時計だ。若干の注釈が必要なものもあるが、すべてが公明正大である。
この時計は1954年に製造されたものの売れ残ったため、パテックは1960年代にゴールドの“ミラネーゼ”ブレスレットを追加し、オリジナルの“フィーユ”針を新しい夜光針に交換することでアップデートを図った。第2世代ダイヤルは、売れ残った個体の販売促進を目的にアップデートされたものだと考えられている理由の一例である。この時計は1960年代にオーストラリアに渡り、かの地で販売された。再び市場に出てきた際には、“シドニー・ローズ”というニックネームが与えられた。フィリップスはこの時計を2017年に74万2000スイスフラン(当時の相場で約8450万円)で販売した。
ホワイトゴールドトリオ
2497 White Gold
ジャズ・コンボの名前のように奇妙だが、ムーブメント番号888,015、888,054、888,055の3つのWG製Ref.2497を“ホワイトゴールドトリオ”と呼んでいる。いずれも第2世代(ウェンガー社製ケース、第1世代のダイヤル)である。前編では、パテックがWGをきわめて希少な存在にしていた最後のリファレンスであると述べた。そのうちの1本、友人のデイブが所有している888,054を実際に見ることができたのは幸運だったが、それだけがトップ3に入れる理由ではない。ブレスレットに注目してみよう。
正面から見ると、この時計はゲイ・フレアー社製ブレスレットによる切れ間のない完璧な列があり、その列をつなぐジョイント部分は“フィレンツェ様式”の仕上げで覆われているように見える。同じようなブレスレットを持つプラチナのモデルとは実に対照的だ。また、この時計は7.8インチ(約19.8cm)以上の手首の人に合うだろう。私が試着した際、ブレスレットは私の手首にジャラジャラと余っていた。ファクトリーブレスレットの興味深い微妙な特徴のひとつは、7時位置にある切り込みで、ブレスレットを外さなくてもムーンフェイズの修正ボタンにアクセスできるようになっていることだ。この時計はオークションで何度も落札されており、最近では2021年のフィリップスにて281万3000スイスフラン(当時の相場で約3億3780万円)で落札されている。
同ブランドにセリタベースのSW330-2ムーブメントが初めて導入された。それ以来、アーカイブに追加されたGMTは少数ながらもいくつかのモデルが登場している。たとえば、ETAムーブメントを搭載したチタン製のGMTや、カナダのメンズウェアリテーラーであるヘンリー・シンガーとのコラボレーションによるモデロ クワトロ、そしてもちろんフォージドカーボンケースを使用した第2弾HODINKEEエディションなどがある。これらエディションの価格は概ね1500ドル(日本円で約20万円)台以上で推移しており、フォージドカーボンケースモデルでは3000ドル(日本円で約45万円)に達するものもあった。
今年、ウニマティックは1000ドル(日本円で約15万円)以下の価格帯を強化することに注力している。7月にはクラシックシリーズと並ぶエバーグリーン製品として、4つのクォーツ“ツールウォッチ”シリーズを非限定版として発表した。その流れを受けて、先週ウニマティックは新たにふたつのモデル、モデロ ウノ GMTとモデロ クアトロ GMTをリリースした。これらは初となる日本製GMTムーブメントを搭載することで価格を大幅に引き下げたものだ。
デザイン面において、U1-GMTとU4-GMTはそれぞれモデロ ウノおよびモデロ クアトロファミリーのほかのモデルと同様の特徴を備えている。どちらもウニマティックの象徴である幅の広い40mmケース、22mmのラグ幅、両面ドーム型サファイアクリスタル、ドリルドラグ、そして300mの防水性能を備えている。今回、ウニマティックはモデロ サンクで初めて採用されたクイックリリース付きのTPUラバーストラップを改良し、新たに採用した。個人的には以前のウニマティックのラバーストラップもとても気に入っていたが、多くの人がもっと柔らかく、テーパードしたデザインを望んでいた。その希望を反映したのが今回の新バージョンである。もう少しだけ厚みが増せば、重厚感のあるケースとよりマッチするのではないかとも感じたが、それでも元のストラップに比べて明らかに快適さが向上している。
正面から見ると、モデロ ウノとモデロ クアトロ GMTのモノクロデザインが、2021年に見られたトーンを反映していることは明らかだ。ダイヤルはマットブラックで、インデックスにはスーパールミノバが塗布されており、6時位置には日付窓が設けられている。針のデザインはブランドが“ファントムラダー”と呼ぶスタイルで、先端の大部分が白く塗装されている秒針は逆ロリポップ針となっている。
これまでのいくつかのモデル同様、この2種類の時計で私が最も気に入っているディテールはくり抜かれたGMT針だ。先端にはスーパールミノバがコーティングされており、今ではこのデザインをウニマティックの象徴的な要素と捉えている。大きめのGMT針との相性もとてもいい。とくに誇張された針のデザインが気に入っており、明るく対照的な夜光コーティングが施された部分が際立つ。また中央がくり抜かれていることで、ダイヤルが常に遮られないようになっている点も素晴らしい。
モデロ ウノ GMTには120クリックの逆回転防止ベゼル(24時間表示付き)を搭載。ウニマティックのGMTベゼルも、一般的なGMTのように1時間ごとにクリックする仕様に変わればいいという声が以前から多くあり、私もその意見に賛成だ。そうすることでGMT機能がさらに実用的に感じられるだろう。ベゼルインサートはマットブラックであり、このモデルではベゼルの時刻表示に新しいフォントが採用されていると思われる。以前のGMTベゼルと比べるとこのフォントは少し力強く、やや横に広がった印象があり、全体的にほんの少し未来的なデザインを与えているようだ。
モデロ クアトロ GMTでは、ウニマティックにとって初めて固定ベゼルにマークを施したモデルである。このマークはエングレービングではなく、酸を使ったエッチングによって施されている。酸を用いたこの手法は、金属に物理的な工具を使用するのではなく酸性の溶液を使ってデザインを刻む技法である。U4-GMTのベゼルで見られるように、酸エッチングの主な利点のひとつは、溝に機械加工の跡が残らず、よりシャープでクリーンな仕上がりになる点だ。
ふたつの時計を裏返すと、裏蓋にはモデル名、各300本限定のシリアルナンバー、そして外出先でもベゼルの使い方を確認できるタイムゾーンスケールが刻まれている。
もちろん、今回注目すべき点は日本製のGMTムーブメントを搭載したことだ。これによってウニマティックはこのふたつのモデルの価格を大幅に引き下げることができた。ケース内部に搭載されているのはセイコーの自動巻きムーブメントNH34Aで、振動数は2万1600振動/時、そしてブランドのほかのGMTモデル同様に“コーラー”GMT機能を備えている。“コーラー”GMTとはローカルタイム用の時針を単独で調整できるのではなく、リューズを引き出したあとにGMT針を単独で調整できる機能を指す。ムーブメントの精度は日差-20秒から+40秒と、きわめてセイコーNHらしいスペックだが、この価格帯では十分許容範囲だろう。個人的にはセイコーNHのムーブメントを搭載した時計は体感いい結果が出ているが、精度は個体差があるだろう。
装着感はまさにウニマティックらしいものだ。ウニマティックのように厳格なデザインシステムを持つブランドの予期せぬ利点のひとつは、ひとつのモデロ クアトロを装着すればほかの同モデルもほぼ同じ装着感だと分かるため、純粋にデザインに集中できることだ。結局のところ、これらは大振りな時計なのである。私は多くのモデロ ウノとモデロ クアトロを所有していて、少し大き目の時計として楽しんでいる。しかし日本製ムーブメントを搭載したウニマティック全般に言えることだが、その厚さは確かに目立つ。スペック上では、モデロ ウノはモデロ クアトロよりも薄く、U1が12.9mmで、U4が13.7mmだ。しかし私の細い手首ではU4の固定ベゼルデザインのほうが装着感が高く、視覚的にもコンパクトに感じられる。
もしどちらかを選べと言われたら、私の心はモデロ クアトロ GMTに傾くだろう。固定されたサテン仕上げのベゼルが新鮮さを感じさせ、スティールケースとの調和はこれまでに見たことのない魅力を引き出している。モデロ ウノが675ユーロ(日本円で約11万円)、モデロ クアトロが600ユーロ(日本円で約9万5000円)という価格設定は、同じくセイコーNHムーブメントを搭載するウニマティックの“クラシック”シリーズのすぐ上に位置している。これらふたつの時計はこの価格帯において、より興味深い機能を顧客に提供するモデルなのだ。
このモデルは同ブランド初となるシェイプウォッチ(特定の形状を持つ時計)である。ムーブメントにはほかのモデルにも採用されているソプロード製M100を搭載し、際立ったデザインと魅力的な価格設定を重視している。新作の価格はほかのシンプルなタイムオンリーウォッチよりやや高めの1490ユーロ(日本円で約24万円)だが、それでもコレクションに加える価値のある魅力的なモデルだ。
Serica Reference 1174 “Parade”
“パレード”という名前は、アメリカで一般的に思い浮かべるパレード(フロートや巨大な七面鳥型バルーンのようなもの)から取られたわけではない。むしろファッションショー、軍事式典、あるいは愛の儀式のように、人々が自身の最良かつ独自の姿を披露する場のイメージに由来している。このステンレススティール製ケースは、横35mm、縦41mm、厚さ8.6mmで、“スタジアム型”と呼ばれる独特の形状を採用している(これはブランド独自の用語だ)。さらに同じ“スタジアム型”のピンバックルを付属し、統一感を持たせている。またRef.1174というリファレンスは、ケースの幅と長さの比率(1:1.74)から名付けられており、セリカがこのモデルのために選んだバランスの取れたプロポーションを示す。ケースの仕上げは、フラットなヘアライン加工と磨き上げられたエッジが巧みに組み合わされている。また、片側にはリューズガードとしてふたつの小さなフランジが設けられ、それが反対側とのバランスを生み出している。この価格帯としては非常に満足度の高い仕上がりだ。
Serica Reference 1174 “Parade”
文字盤は、サテンブラックとサンレイ仕上げの真鍮製の2種類を用意。ダイヤルにはS字カーブを描いたギヨシェ風装飾が施され、サンレイ仕上げが美しく映えるデザインだ。さらに球体のような立体的なインデックスが配されているのも特徴的だ。針にはミラーポリッシュ仕上げが施されたドーム型のソードハンドを採用。ストラップはラグのない仕様で、幅18mmから14mmにテーパーしたデザインとなっている。この時計には秒針がないためほかのモデルのようにCOSC認定を受けることはできないが、重要なのはそこではない。この時計は日常とは少し違う、特別な感覚を手首に加えたいときに選べる時計なのだ。現在セリカの公式ウェブサイトにて1490ユーロ(日本円で約24万円)で販売中だ。
我々の考え
好むと好まざるとにかかわらず、現在はシェイプウォッチのルネサンス期にある。アノマやトレダノ&チャン、ファーラン・マリ、そしてほかにも多くのブランドが、近ごろさまざまな形状の時計を発表している。そして日々時計を見ている私にとって、それは新鮮さを取り戻すひとつの清涼剤のように感じられる。ファーラン・マリのディスコ・ヴォランテ同様、このモデルも形状に関しては比較的控えめな印象を与えるが、それでもセリカにとっては大きな挑戦といえる。当初は少し懐疑的だった。というのもセリカといえば精巧につくり上げられたツールウォッチという美学が強く結びついていたからだ。ただ見れば見るほど、その魅力が心に染み渡るようになった。
Serica Reference 1174 “Parade”
セリカのフィールドクロノメーターをまず手に取るだろうという気持ちは変わらないものの、このモデルも楽しい選択肢であり、細部まで考え抜かれたデザインが光る1本だ。デザインはどこかパテック フィリップのエリプスをほうふつとさせる部分があり、ケースの側面にある“耳”のようなディテールにはノーチラスの雰囲気も感じられる。しかし、特にブラックダイヤルは写真で見る限り非常に魅力的だ。曲線的なサンレイ仕上げのギヨシェ風パターン(実際にはスタンプ加工によるもの)、ドーム型の針、そしてポリッシュ仕上げには、細部へのこだわりが見て取れる。セリカが引き続き価格以上の価値を提供していることがうかがえる。装着感もよさそうだが、実際に手に取って確認してみたいと思う。
Serica Reference 1174 “Parade”
基本情報
ブランド: セリカ(Serica)
モデル名: パレード(Parade)
型番: 1174
直径: 35mm×41mm
厚さ: 8.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: サテンブラックまたはサンレイ仕上げの真鍮製、S字カーブのギヨシェ風装飾とサンレイ仕上げ、鏡面仕上げのドーム型針
インデックス: 球体型
夜光: なし
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: グレイン加工のカーフレザーストラップ(幅18mmから14mmにテーパー)、SS製“スタジアム”型ピンバックル付属
この言葉は実質的に“いつか手に入れたい憧れの時計”という意味で使われるようになったが、その“いつか”が実現する可能性は極めて低いことがほとんどだ。これまで多くのコレクターに「あなたにとっての聖杯は?」と尋ねてきたが、その答えは多岐にわたる。たとえばポール・ニューマンダイヤルを備えたロレックス デイトナや、1930年代のユニークピースのカルティエなどが挙げられる。それぞれが自分なりのグレイルリストを持っていると思うが、それを比較し、普遍的な定義に落とし込むとするならば、時計収集の世界における究極の聖杯とはスティール製のパテック フィリップ Ref.1518であることに異論はないだろう。もしこれを聖杯として認識していないコレクターがいるなら、それはこの時計の存在を知らないか、単に目標が低すぎるかのどちらかだと私は思う。
わずか281本しか製造されていないRef.1518は、マテリアルを問わずコレクターにとっての夢の存在である。この時計のケース径は35mmで、バルジューのエボーシュをパテック フィリップが改良し、仕上げを施したムーブメントを搭載している。さあ、いわゆる“基本情報”はここまでだ。1941年から1954年にかけてのカタログに掲載されたこの時計を理解するには、その時代背景を知ることが重要である。Ref.1518は世界初の量産型永久カレンダー搭載クロノグラフであり、同じカテゴリーに並ぶ時計は存在しない。もし類似のモデルを挙げるとすれば、20世紀中盤における永久カレンダー腕時計の名門であるオーデマ ピゲのものが思い浮かぶ。しかし、APが製造した同様のモデルは9本のみであり、そのどれにもクロノグラフ機能は搭載されていなかった。
最後に市場に登場したスティール製Ref.1518はケースシリアルナンバー508473(1)の個体であった。オーレル・バックス(Aurel Bacs)主導でフィリップスのオークションに出品され、時計界に衝撃を与えた。この出来事はHODINKEEでも詳細に取り上げられ、最終的な落札価格は驚異の1100万2000スイスフラン(当時の為替レートで約12億1000万円)に達した。当時この価格はオークションにおけるパテック フィリップの時計として史上2番目に高額であり、それを上回るのはヘンリー・グレーブスJr.(Henry Graves Jr.)のスーパーコンプリケーションのみであった。かくしてこのスティール製のRef.1518は、当時のオークションで最も高価なパテック フィリップの腕時計となったのである。
そして先日、モナコ・レジェンド・グループがシリアルナンバー508475(3)の個体をプライベートセールで販売すると発表した。単刀直入に言おう。その価格が知りたい? それならばとりあえず、“2000万ドル(日本円で約30億4700万円)超”という数字を挙げておく。
この価格、もしくはそれに近い金額で取引されれば、本機は史上最も高額で販売された腕時計となる。モナコ・レジェンド・グループの会長であるダヴィデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)氏は、スティール製Ref.1518の扱いに精通している。価格に異議があるならば、彼に直接問い合わせるといいだろう。ただしその前に知っておくべきことがある。“ビッグ・ボス”として世界中のコレクターに親しまれる彼は、これまでに存在するスティール製Ref.1518の全4本を少なくとも一度は販売しており、この個体も過去に2度取引されていることが知られている。
ケースシリアルナンバー508475(3)は、2005年にパルメジャーニ氏が出版した書籍のために撮影された。 Image courtesy of Monaco Legend Group.
「なぜ最も重要なヴィンテージウォッチを、4月のモナコ・レジェンド・グループの次回オークションの目玉としてではなく、2月のプライベートセールで販売するのか?」と疑問に思うかもしれない。この点についてパルメジャーニ氏自身が説明し、時計販売の最高峰が考えるプロセスの一端を明かした。「私が考えるに、この価格帯に到達するのはオークションでは難しい」と彼は語る。「時計オークションでは、価格が500万、600万、800万ドルまでは上がる。オーレルのオークション(フィリップスのことを指している)でも、この価格帯の時計は見られる。しかし1000万ドルを超えると、一気に難しくなる」。彼は、この販売方法のほうが買い手にとって安心感があり、「じっくりと、どれほどこの時計を手に入れたいのか考える時間を持てる」と考えている
販売プロセスに関する締めくくりとして、彼はこう付け加えた。「今朝から驚くほど多くのメールを受け取っている……私の考えでは、この時計が長く市場に留まることはないだろう」
スティール製パテック フィリップ Ref.1518、シリアルナンバー508475(3) の歴史
前述のとおり、パルメジャーニ氏はこの個体を過去に2度販売している。それゆえに、この時計には非常に興味深い歴史がある。スティール製Ref.1518は時計収集市場が確立された当初から、コレクターズアイテムの頂点に君臨し続けている。そのため、1980年代にその存在が確認されて以来価値は飛躍的に上昇し、所有者が次々と入れ替わる状況が続いている。
この個体は1980年代初頭に、ニューヨークの47丁目で発見されたことで広く知られている。当時の販売価格は4500ドル(当時の為替レートで約100万円)と伝えられており、しばらく店頭に並んでいたという。最終的にスイスの時計ディーラーがダイヤモンド・ディストリクトの片隅に眠っていたこの時計を発掘し、当時伝説的なコレクターであったルイジ・カルヴァジーナ(Luigi Calvasina)に売却した。パルメジャーニ氏によると、このスイスのディーラーはほとんど利益を得ずに時計を販売したという。カルヴァジーナは数年間この時計を所有し、その価値が約1万ドル(当時の為替レートで約220万円)にまで上昇したところで、高額だと感じ売却を決断した。次の買い手はミラノの時計販売店ピサ・ウォッチズのグラツィア・ピサ(Grazia Pisa)であった。この時計はミラノの店舗のショーウィンドウに飾られ、やがてイタリアの高級ファッションブランド、エトロの創業者であるジェローラモ・エトロ(Gerolamo Etro)の目に留まることとなる。
オメガとオリンピックの関係が時計業界において最も重要であり、最も長きにわたるスポンサーシップ/パートナーシップのひとつであることは広く知られていることだろう。1年と1日後の2026年2月6日、オリンピックは2026 ミラノ・コルティナ冬季オリンピックとして再び開催される。
この時計は、1950年代から2008年に至るまでのオメガの歴代オリンピックウォッチとつながりを持つ(その詳細については後述する)。“ドッグレッグ”と呼ばれるラグや、ムーンシャイン™ ゴールドのインデックスを備えた端正なホワイトダイヤルはヴィンテージ志向に見えるかもしれないが、ケース径をわずかに大きくした37mm(厚さ11.4mm)など、21世紀の感覚に適応するための細かなアップデートが施されている。またホワイトのグラン・フー・エナメルダイヤルにゴールドのアプライドインデックスを配するなど、オリジナルからのインスピレーションも忠実に取り入れている。
この時計におけるオリンピック関連のブランディングは、ケースバックにある2026 ミラノ・コルティナ冬季オリンピックロゴのみである。近年ではシースルーバックが一般的になっているが、このクローズドケースバックはオリジナルモデルの仕様により近いものとなっている。裏蓋の下に収められているのは自動巻きムーブメントのオメガ製Cal.8807。このムーブメントは2万5200振動/時で駆動し、約55時間のパワーリザーブを備えている。またMETAS認定のマスター クロノメーターを受けており、1万5000ガウスまでの耐磁性能を誇る。
本作は限定版ではなく、信じられないほど魅力的で手に入れるために貯金を考える価値のある時計であることを考えると、大きなプラスに感じられる。価格は297万円(税込)と決して手ごろではないが、近年の金の価格を考慮すれば、緻密にデザインされた時計としては標準的な設定といえる。
我々の考え
今回の発表は非常に引きつけられる。“知る人ぞ知る”という要素があり、それこそが時計の世界を特別なものにしている。ではその知るべきこととは何か? まず“ドッグレッグ”ラグはオメガのラインナップにおいて象徴的なデザインであり、ドレッシーなシーマスターだけでなくコンステレーションラインにも採用されている。特に1952年、オメガはオリンピックの公式計時に20年間貢献した功績を称えられ、“メリットクロス(Cross of Merit、オリンピックの公式計時に20年間貢献したことを称えられて授与された賞)”を授与された。そして1956年のメルボルンオリンピックではその功績を記念し、オリンピックのブランディングと“メリットクロス”ダイヤルを備えた特別なシーマスターを発表した。
下のモデルを見ると、今回の新作のインスピレーションがどこから来ているのかがよくわかる。2008年、オメガは再び“メリットクロス”ウォッチから着想を得て、北京オリンピックのための限定モデルを発表した。オメガはオリンピックの公式計時を約100年にわたり担ってきたブランドであり、オリンピックの歴史とともに歩んできた存在である。そして、それはこれからのオリンピックの未来にもつながっていく。
私はこの立体的なラグデザインを気に入っている。ケースバンドからラグが落ち込んで再び持ち上がり、そこから幾何学的に下方向へと形作られる。この独特の構造が生み出す切れ目のようなものは、ヴィンテージクロノグラフに見られるスピルマンケースを好む理由と同じで、非常にシャープな印象を与える。またわずかにドーム状になったホワイトのグラン・フー・エナメルダイヤル、クラシカルなシーマスターロゴ、そしてグレーのプティ・フー(コールド)・エナメルで転写されたミニッツトラックで転写されたミニッツトラックが、現代的な信頼性を求める現代の着用者のためのヴィンテージスタイルの時計として、このモデルを非常に魅力的なものにしている。
それとケースプロファイルにも注目する価値があると感じた。このような幾何学的デザインは、まさに1950年代を象徴するスタイルだといえる。そして写真を見る限り、オメガはケースの細部に至るまで完璧に仕上げており、六角形のリューズにまで細心の注意が払われている。時計選びは価格帯ごとにそれぞれの好みがあるものだが、もし2万ドル(日本円で約300万円)未満の価格でエレガントなデザインを持つ現代的な時計を探しているとしたら、このモデルは間違いなく私の候補リストの上位に入るだろう。
Seamaster 37 mm Milano Cortina 2026
基本情報
ブランド: オメガ(Omega)
モデル名: シーマスター 37mm(Seamaster 37mm)
型番: 522.53.37.20.04.001
直径: 37mm
厚さ: 11.4mm
ラグからラグまで: 45mm
ラグ幅: 19mm
ケース素材: ムーンシャイン™ ゴールド
文字盤: ホワイトグラン・フー・エナメル
インデックス: ムーンシャイン™ ゴールド製アプライド
夜光: なし
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターレザーストラップ